第1章/猫又男子のお仕事探し

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 私が霊力だだもれの女じゃなかったら、きっと彼は私に声をかけなかっただろう。  私は、仮に霊力がだだもれじゃなかったとしても、篠崎さんに、 「使える奴」  だと思ってもらえるような社員でいたい。  きっとそれが、私の胸の苦しさを解決するたった一つの方法だ。  ――ひとつだけの、方法。 「ん? なんだ、人の顔ぼーっと見つめて」 「それって何年前の話なんですか?」 「そうだな……400年くらいか」 「え、それって」 「なんだ?」  にやにやと笑う篠崎さんに、私は率直な疑問を突きつけた。 「……篠崎さん、狐さんにしては、寿命長過ぎませんか?」 「いまさらかよ!?!?!?!?」  その時スマートフォンが音を鳴らす。  私はすぐに取った。 「お電話ありがとうございます。こちら『福岡あやかし転職サービス』井ノ中です!」  社長がぽんと無言で肩を叩き、そして飲み干した缶を捨てに行ってくれる。  これからまた忙しくなる。私は気合を入れて、笑顔で電話に対応した。
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