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イィァァァアアアア〜!
ビブラートを効かせた、甲高い叫び声が響き渡る。声の主は、ステージ上にいる真っ赤なモヒカン頭の、女ボーカルだ。
女が中指を立てると、観客もそれに応えるように一斉に拳を突き上げる。
それをジロリと睨みつけた女は、そのまま拳を握り、親指を下に向けて伸ばすと、首を掻っ切るポーズをしてみせた。
剥き出した白目。
ベロリと口から這い出てきた、ピアスの付いた舌が唇をぬるりと舐めると、真っ赤なルージュが艶やかに煌めいた。
ライブハウスのボルテージは最高潮に達している。達也はその波に飲まれないように、深々と帽子を被り直した。
「テメェら、次でラストだ! 死にたい奴だけ、ついて来イィァァァアアア〜!」
ドラムの音を合図に、歪みを効かせたギターが、超高速のメロディーを奏でる。ベースは観客を煽るように、重低音を響かせる。
やっとラストの曲だ。しかし、達也の目的は達成できていない。
母親に、彼氏がいるらしい。
どうやら、真剣な交際らしい──。
普通なら息子として、そこに首を突っ込むような野暮なことはしないだろう。しかし、達也の母親は、目の前で真っ赤なモヒカンを振り乱す、メタルバンドのボーカルだ。
相手が気にならないはずはない。
ギターも、ベースも、ドラムも、太い腕にタトゥーが入っている。しかも、全員真っ赤なモヒカンだ。お揃いらしい。
初めて見るステージ上での母の姿もさることながら、もし父親になる人間が、この中にいるとしたら。
このメンバーの中に、いるとしたら──。
イィァァァアアア〜!
達也が叫んでしまいそうだった。
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