箒頭のジェニー

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 達也はあの日以来、何度かライブハウスに足を運んでいる。  けたたましい轟音の中、ふと思うことがある。  それにしても、なんでメタルなんだよ──。  達也が幼いころから、母は歌が好きで、よく歌ってくれた。見た目こそ派手ではあったが、しかしそれは、童謡や流行りのポップミュージックだったはずだ。  艶やかで優しい歌声は、今でも達也の耳に残っている。子守歌は心地よく、思い返すだけでも眠りへと誘ってくれそうだ──。 「テメエら、これ聞いたら、さっさと家に帰って寝やがれ! ラストの曲だ! 死神のララバイィァァァアアア〜!」  何度足を運んでみても、彼氏同様、その手掛かりは見つからない。 「もうバンド活動なんてやめろよ。似合わねーよ」  そう言って部屋で眠りこける母親に毛布をかけたこともある。  ただ、俄かに気付き始めている一面もある。  帽子はニット帽に変えた。  気付かれないように、こっそりと机の奥にしまってある。   首には十字架のネックレスを付けている。  ライブハウスで、周りに溶け込むためだ。   実はウィッグも付けている。真っ赤な長髪だ。ライブハウスに来ていることを、知られたくはないからだ。  最近、メタルバンドの音楽を聴き漁っている。母親の気持ちを理解すれば、少しは気が収まるかもしれないから。    タトゥーシールを買ってある。  まだ勇気は無いけれど。  舌にピアスをあけた。耳だと学校でバレてしまうからだ。  次は思い切ってモヒカンも悪くないと思っている。  家でたまに、ィイアアア~と、発声練習をしている──。  イィァァァアアア〜!  達也は拳を振り上げた。血が煮えたぎるのを感じる。爆音が、脳内のすべてを掻っ攫う。  空っぽになった脳みそは伝達する大義を忘れ、本能だけが体を動かしていく。何もないことが、心地よい。きっとステージ上で叫ぶ達也の母も、おなじこと。  メタルは救いだったのかもしれない。  女手一つで、十八歳から子育てと仕事をしてきた母親の叫び声は──。    イィァァァアアア〜!  達也にはそれが、自身を鼓舞させるための叫び声のようにも聞こえていた。
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