お人よし協奏曲~ストロベリーバナナを添えて~

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お人よし協奏曲~ストロベリーバナナを添えて~

「あのう、私のこと覚えてません?」 「……へ?」  用事を済ませて交番から出てきたところで、唐突に声をかけられた。大学生の僕よりちょっと年下、女子高校生くらいの女の子に、だ。大きくてキラキラした眼、あどけない顔立ちに髪の毛を二つ結びにしている。いかにも良いところのお嬢さんっぽい、とても可愛らしい少女だ。  僕は狼狽してしまった。こんな可愛い子、一度見たら忘れないはずだ。それなのに、僕には全く心当たりがない。 「あ、あの……人違い、とかじゃなく?」  遠回しに“ごめんなさい、覚えてません”と告げると。彼女は分かりやすく傷ついた顔をして、そんなぁ、と肩を落とした。 「まさか、本当に忘れちゃってるんですか……私のこと」 「え、え?」 「本当の本当に、覚えてないんですか?約束までしたのに?」 「ええええ!?」  どうしよう、罪悪感が、やばい。僕は慌てた。絶対に逢ったことなんかないと言えるほど、記憶力に自信があるわけではない。それこそ受験でバタバタしていた時期とか、とにかくリアルが忙しかったアレソレの時期とか、もっと言うと小さい頃だとか。そういう時にこんな女の子と出逢う機会があって、約束なんてことを交わしたこともあったのだろうか。もし本当にそうだとしたら、無責任と言う他ない――いや、さすがに小さな頃ちょっと逢ったことのある女の子、とかだったらそこまで責任を追及されても困るのだけれど。 「ひっどい!」  彼女はその可愛い頬をぷっくりと膨らませて、僕の手をぐいぐいと引っ張ったのだった。 「どうせ暇でしょ、ちょっと付き合ってくださいよ先輩!思い出すまで、一緒にいてもらいますから!」 「は、はいいい!?」  混乱するなという方が無理があるだろう。  僕みたいな地味な平凡男子に、こんなラブコメのような出来事が起きるだなんて全く想像もしていなかったことなのだから。
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