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声を荒げる里見を見て、僕は納得する。
同じ雑誌の中には、もちろん里見の短編小説も間違いなく入っていた。しかし、当時書き物の仕事を貰えていたのは僕だけだったのだ。里見はそこが納得いかない様子だった。
「編集の人に直接尋ねてみたら良いじゃないか」
「尋ねたさ! だが、向こうさんは何も言ってはくれないのだ!」
あー、悔しい! と、里見は地団駄を踏む。僕は困り果ててしまい、
「里見。女の嫉妬はまだ可愛げがあるが、男の嫉妬は見られたものじゃあない」
思わず微苦笑しながら口をついた僕の言葉に、里見は僕をキッと睨み付けた。
「お前のその! 人を上から見下したような態度が、俺は嫌いなのだ!」
論点がずれたこの言葉を聞いた僕は、さすがに頭に血が上っていくのが分かった。すっと目を細めて、里見の方を見やる。
「僕が、いつ、誰を見下したと言うのだい?」
「今まで、何度も! 俺の努力の上を軽々と飛び越えて、行ってしまうではないか!」
里見はそれが、悔しくて悔しくてならぬのだと言った。
僕はそんな熱くなっている里見を見ていたら、自分の熱がすっと下がるのを感じた。代わりに冷たい感情が湧き起こる。
僕は隣を走っている線路を見つめた。
「なぁ、里見よ」
「何だよ」
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