新たなる挑戦☆不器用なふたり番外編

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(――おじさんに負けてることを、思い知りやがれ!)  ふたりが微笑みあっている姿に、宮本はどうしていいかわからなくなる。しかも谷間に腕を挟まれた状態を脱したいのに、皮膚に感じるふにふにした柔らかさのせいで、下手に動かすことができなかった。 「まーくん、彼女いるの?」 「付き合ってる人がいるので、この腕を離してくださいっ!」  宮本が即答したのに、女は脇を締めて豊満な胸でさらに宮本の腕を包み込む。 「まーくんってば、嘘ついてるでしょ?」 「嘘じゃない、本当のことなんです!」 「そうだぞ。コイツこう見えて年上キラーでさ、美人の彼女持ちだ」  しれっと自分のことを言った橋本に、宮本は目を見開いて固まった。 「まーくんが年上キラー……。なんか意外かも」  橋本の言葉を聞いて、女は腕をやっと解放する。宮本はそれに安堵しながら、ふたたび何かされないように、じりじりと距離をとった。すると橋本が宮本の前に立ち塞がり、さりげなく壁になってくれる。 「まーくん、その彼女の写真見せて!」  ふたりそろってホッとしたのもつかの間、女に写真をせがまれて、ぶわっと緊張感が高まった。 「えっと彼女ってば写真が苦手で、撮影許可がおりなくて。一枚も持ってないっす」  実際は橋本の撮影会をさきほど車内でやって、ここぞとばかりに写しまくったことを、口が裂けても言えないと思った。 「本当に一枚もないの?」 「あ、はい。頭(ず)が高くて、なかなか頼めなくて」  頭(ず)が高いってなんだそりゃと、橋本は振り返って背後にいる恋人を白い目で見つめる。その視線に気がつき、宮本は苦笑いでやり過ごすしかなかった。 「そんなんじゃセックスするのも、いちいち頭を下げて頼んでるの?」  女は大きい胸を強調するように両腕を組み、ニヤニヤしながら橋本の影に隠れる宮本を見つめた。嘲るような女の笑みに宮本は内心イラッとしたが、事実を伝えれば馬鹿にされないと考えて素直に答える。 「それは大丈夫っす。エッチ大好きなんで積極的にぃっ、痛っ!」  余計なことを言わせない勢いで、橋本は宮本の額をグーパンチで殴った。 「おまえ、年上の彼女が聞いたら、ぶっ殺されるぞ」 「ヒイィイィ! ごめんなさいです!」  見るからに憎悪が漲る橋本の視線に、宮本は恐れおののき、両手で口元を覆った。 「おじさんってば、エッチ大好きな年上の彼女と知り合いなの?」  橋本としては、エッチ大好きな年上の彼女というワードに不満はあったが、逆にそれに乗っかってやろうと思いつく。 「コイツらの仲をとりもった関係でな。なにか問題があったら、両方から愚痴が飛んでくるんだ。それってめんどくさいだろう?」 「でも今の話って、まーくんが彼女に言わなきゃいいだけの話でしょ。おじさん友達なのに、殴ることないんじゃない?」  自分の躰を使って宮本を誘う女に対抗すべく、橋本は朗らかな笑みを浮かべながら、胸を張って答える。 「俺はただの友達じゃない。友達の中でも一番信用されてるんだ。そうだよな?」  背後にいる宮本に問いかけたのに、「はぁ、そっすね……」なんていう歯切れの悪い返事をした。 (ま~さ~き~、ここは元気よく肯定しないと、ロリ女にツッコミいれられるぞ! 空気を読んでくれ!) 「なんかおじさん、ひとりで空回りしてない? まーくんの今の口調、それほど大事に思ってなさそう」  女がてのひらをヒラヒラさせて指摘した。  ほら見ろ、言わんこっちゃないと、橋本が反撃の言葉を考えた瞬間、宮本から声がかけられる。 「陽さんは大切にする存在を超えた、友達以上の関係なんです。中途半端な気持ちじゃないですから」  橋本は白目をむき、唇を引きつらせた。カミングアウトするにも、タイミングが悪すぎて、フォローできないと咄嗟に思った。 「なにそれ……。友達以上の関係って、どういうこと?」 「雅輝落ち着け。おまえ、自分がなにを言っちまったか、理解しているのか?」  恐るおそる背後を振り返った橋本に、宮本は親指を立てながら堂々と答える。 「わかってますよ。隣に陽さんがいるから、俺は安心してインプを走らせることができる。セブンに乗っていたときの走りと、まったく変わったんです。考え方から何もかも俺を変えてくれた、かけがえのない存在だって」 「おじさん、まーくんよりも速く走れるの?」 「まさか! 足元にも及ばない……」  慌てて正面を向いて答えた橋本だったが、宮本に告げられた内容に表現しがたい喜びをもろに感じてしまった。それが頬の赤みとなって表れてしまう。どのタイミングで直球を投げつけられるか予測不能なため、心臓に悪いと思わずにはいられなかった。 「だったらこれから、ダウンヒルバトルしない?」 「悪いが遠慮させてもらう。俺たちはただ、ここに遊びに来ただけだから。走りに来たんじゃない」  白銀の流星という二つ名を持つ宮本の体面を考えて、橋本から断った。 「走りに来たわけじゃないのに、どうして私の走りについてきたの? 相当頑張らないと、後ろにピッタリつくなんて無理だから」 「それは――」  後ろを振り返って橋本が言い淀むと、宮本が小首を傾げながら口を開く。 「なんていうか、貴女の運転に引き寄せられちゃった感じっす。うろ覚えの道を走るとき、目の前にある車のリズムに合わせて走ると、気持ち楽に走らせることができるんで」
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