「おはよう」を言いたくて。

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 気付けば隣で七海がトースターに食パンを入れていた。  タイマーをセットしてスタートボタン。 「え、嫌よ面倒くさい。お母さんお料理もしているから無理なの。そんなこと言うなら七海が行ってよ」 「えー、やだよ」 「なんで?」 「お兄ちゃん、怖いもん」 「……どこが」  お兄ちゃんは色白のヒョロヒョロ。  怖がられるような存在からは程遠い。  でも子供たち二人の間の関係性も少しづつ変化してきた。  まぁ、四歳離れているとね。いろいろあるのだろうね。  でもたった二人の兄妹。ずっと仲良くしてね。  ――それは数少ない。お母さんの願いなんだよ。  ようやく起き出してきた博貴に、洗濯済みの着替えと学校に持っていく物を指示する。 「洗濯した服はここにあるから!」 「今日、体育あるの忘れてないでしょうね!」  寝ぼけ眼を擦りながら、博貴は「あぁ、うん〜」と生返事。 「はぁ、もう、いつまでもお母さんに頼ってばっかりじゃダメでしょ?」  いつものお小言だ。 「へーい」  博貴は背中を丸めて自分の席ついた。 「お兄ちゃん、トースト焼いてあげよっか?」 「あ、うん、ありがと」  さっきは起こしに行くのが怖いと言っていた七海が、今度はパン焼きを申し出る。  こういうバランスはよくわからない。  でもとにかく「仲良きことは良きことかな」である。  でも本当は博貴だって、その気になれば、全部自分で出来るのである。  私が倒れてしまった後、博貴は自分で洗濯も学校の準備もやって、自分の目覚ましでちゃんと学校に行くようになったのだ。  ――今は私に甘えているだけ。  そう考えるとなんだか情ないような嬉しいようなこそばゆいような、変な感じがした。  だから今は、お小言を言う。  「お母さんがいなくなったらどうするの?」だなんて。  でも本当は知っているんだよ。  君はお母さんがいなくなったら、ちゃんと頑張れる子。  ――私の自慢の息子なんだから。  私が初めて自分のお腹を痛めて生んだ――自慢の長男なんだから。
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