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思わぬところからの、鋭い指摘。
「……どうして?」
「ん? いやなんとなく? いつもよりちょっとテンションが高いっていうか、なんだか楽しそうっていうか……」
「そうかな? ――気のせいじゃない?」
「うん、まぁ、そうなんだろうね」
博貴は最後のウインナーを摘むと、口の中へと放り込んだ。
「はい、お弁当。今日は受験特訓の補習あるんだっけ?」
「うん、ある」
「――頑張ってね」
「うん」
カバンの底にお弁当を詰めると玄関で靴を履く。
「行ってきます」
「――いってらっしゃい」
――受験勉強、頑張ってね。博貴。あなたは出来る子。私に似ちゃったところはあるけれど、ちゃんと努力できる子。だからきっと報われる。あなたの大変な時期に、私が面倒なことになってごめんね。でも、ずっと応援しているから! 頑張れ、私の長男坊!
そして第三号が家を出ていった。
玄関を開いて戸口に立つ。
自転車に跨った博貴が、立ちこぎで家の前の道を加速する。
しばらくすると、その姿は曲がり角に消えていった。
三人が出ていって、家の中は急に静かになった。
朝はいつも戦争だ。
でもなんだか、その戦争は――嫌いじゃなかった。
私は大きく伸びをする。
約束の時間まではもう少しある。
大きく息を吐くと私は、腰に手を当てる。
そして一人、口に出して呟いた。
「――さて洗濯物とお風呂掃除くらいは、やっちゃいますか!?」
送り出しから、いつものルーチン。
テレビをつけていつもの情報番組を流しながら。
ああ、この事件、犯人一ヶ月後くらいに捕まるんだよね〜。
この不倫報道ってガセだったんだよね〜。
とか、そんなことを考えながら。
細々といろいろやっていたら、知らない間に午前十一時くらいになっていた。
もうあんまり時間はない。
約束の時間は今日の昼十二時までだったから。
――そろそろ良いかな?
そう思って私は冷蔵庫に向かう。
そっと開いて、冷蔵庫の奥からモンブランを取り出した。
一昨日、この時間にやってきた時に、予め買っておいた自分へのご褒美。
賞味期限は今日のお昼まで。だから、なんだか、丁度良かった。
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