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プロローグ
私の母は変人です。
どんな料理でも一味を大量に入れ、イタリアンレストランでカルボナーラを注文。いつもの様に自前の一味を大量にふりかけ、真っ赤になったカルボナーラを見た、店員さんの引きつった顔が忘れられない。
母の変わっている点は味覚だけに留まらず、日常生活もまた変わっている。歯磨きをしたあとにアイスを食べ、髪はボディソープで体と一緒に洗う。箸が苦手なようで、うどんやそばもフォークを使い、それでもラーメンだけは箸で食べる。その理由を聞いたところで、私が納得する答えは返ってこないと知っているので、触れないようにしている。
そんな変わり者の母ですが、周りには自然と人が集まってきます。家に帰れば、見たことのない男とお酒を飲んでいたり、泊まっていく人も珍しくありません。父は私が幼い頃に他界してしまったので、独身の母が男を連れて来ようとも、一向にかまわないのですが、人見知りな私はあまり良い顔をしたことがありません。
もちろん、家に来る男達とは健全な関係らしく、その辺りは母のことを信頼しています。
それよりも、一番私を悩ませるのは、母と歩いている時です。母と一緒に歩いていると、道行く人から声をかけられることは日常茶飯事。八百屋の徳さんに、パン屋の花さん。肉屋のカズさんは母のことを愛しているようで「姫」などと呼んでいます。母の気を引こうと必死に身なりをきれいにしていますが、まったく相手にされていないのを見ると心が痛いです。
また、よく物を戴くことが多く、家は戴き物で溢れています。先日は、初めて見るお婆さんから大福を戴いていました。母に尋ねると「荷物を大量に抱えていたお婆さんを、手伝った時のお礼だ」と言っていました。お節介な母らしい話に納得しましたが、その日は私のピアノの発表会だったので、母の遅れた理由を、その時知りました。
自分や私よりも、困っている人を優先してしまう母。本来は、誇りに思うところなのでしょうが、そんなことが当たり前のように続いてしまうと「またか」と思うしかありません。
自由奔放で変わり者。人気者で、困っている人を放っておけない母。そんな母にはいくつかのルールがあり、そのルールに従って行動しています。
母の思いと、そのルールにまつわるいくつかの話。その一部を語りたいと思います。
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