その1

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その1

アイツらの背中が好きだ。 飛び散る汗。 揺れる頭。 残像を残して動き回る。 フロアで熱狂するオーディエンスをいちばん後方で目にしながら、俺はアイツらの背中を見続けている。 「アイツら」は、数え切れないくらいに変わってきた。 俺が「ここ」に辿りついたのは、はるか昔のことだ。 あの頃にいた「アイツら」は、今ではもうほとんど残っていない。 パンクは今やクラシック。「アイツら」の顔にも、ずいぶんシワが増えて、昔みたいに血が騒いだり、手が出たりなんてシーンも滅多に見なくなった。 それでも、俺は「ここ」にこびりついた最後のシミみたいなもんだ。周りが知らない昔の話を、俺は知っている。 比較的若いやつらも、俺のことを慕ってくれる。 ライヴが終われば「タケさん、タケさん」と声をかけてくれて、年齢なんか感じさせない現在進行形の話を繰り広げる。 仲間扱いしてくれるし、何より俺みたいなオヤジと、未だにバンドを組んでくれる。 ドラマーってのは、重宝されるのかもしれないな。でも、そんな打算を差し引いても、みんな気持ちのいい奴らばかりだ。 やっぱり、世代の感覚は、少し変わってきたかもしれない。 昔は、ライヴ中もライヴの後も、みんな浴びるほど飲んだ。 打ち上げでもずっと熱い話を繰り広げて、気がついたら朝になってた、なんてザラだった。ほんの数時間ウトウトして、ぼーっとした頭のまま仕事に向かったもんだ。 今は「明日、早いんで」なんて言って、サッサと帰るやつらが多くなった。 分かるよ、俺も年だから。 守るものができた奴らも、多いよな。 時代は移りゆくもの。年寄りが文句を言っても、始まらないだろ。 そんな思いを抱えながら、俺はアイツらの背中を見続けている。
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