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「――何して……っ!」
その声にハッと我に返ると抱きしめられていた温もりが消え、殴られたお兄さんが倒れているのが見えた。
「え?」
「紺野さんっ大丈夫ですかっ?? 兄に、何か……変な事されていませんかっ? ああ……こんなに泣いて……。何を、何をされたんですか……?」
心配そうに歪む八重樫くんの綺麗な顔。
「キミが……い……」
「え?」
「キミが来ないのが……悪いっ! 俺はキミに会えるのを楽しみにしてた! のに……キミが来ない、から!」
自分でも驚くほど素直に気持ちを言葉にする事ができた。
他人に対してこんなに自分を出したのは初めての事だった。
「え? え? 俺……?? ――兄は……?」
「ったく、いきなり殴るかね――あー痛い」
八重樫くんに殴られた頬を押さえながらお兄さんは起き上がって苦笑していたが、その瞳は優しいままだった。
「だって兄貴が紺野さんの事泣かしてたから…」
いまいち状況が飲み込めずオロオロとしだす八重樫くん。
「んーまぁ僕のせいっていうのはそうだけど、この子が今泣いてるのはどうやらお前のせいみたいだけど?」
お兄さんにそう言われ、まるで叱られた仔犬のようにしょんぼりとした様子を見せる八重樫くん。
好き。
「そう、なんですか?」
「さっき言ったようにキミが悪い……っ。お兄さんは悪くない。お兄さんは昔もチョコくれたし今も俺を呪いから解放してくれた……」
「え……?」
ますます訳が分からないという顔をする八重樫くん。
「おふたりさん、込み入った話は瑞貴の部屋で二人っきりでしたら? あいにくと僕はお邪魔虫にはなりたくないんでね」
そう言ってにやりと笑うお兄さん。
『ふたりっきり』という言葉に、なんだか恥ずかしくて顔が真っ赤になった。
チラリと見た八重樫くんも同じみたいだ。
その事が嬉しくてつい口元が綻ぶ。
俺たちはお兄さんの提案に従い、八重樫くんの部屋に場所を移す事にした。
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