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【勇者社長と魔王本部長】
むかしむかし、ある異世界で魔王と勇者がおりました。
勇者は魔王城へ行き、魔王と戦い、そして、あと一刺しで決着がつくと言う時です。
勇者は剣を振り上げました。
魔王は死を覚悟して、いい笑顔で死のうと思い、ニヤリと笑って目をつぶりました。
でも、待てど暮らせど一向に最後のとどめが来ないので、目を開けました。
すると勇者が、「やめた」と言って剣を納めたのです。
「どうせ、お前を殺しても、また違う魔王が現れるんだろう?」
「ククク……そうだ、吾輩が消えてもまた違う魔の者が立ち上がるだろう、さあ勇者よ!とどめをさすが良い!」
「だからやめたと言ってんだろうが。よし、魔王。会社作ろう」
「……は?」
「いや、だから。お前を生かしておけば魔王が生まれないんじゃないの?だから精々長生きすればいいじゃん?俺とさ、この世界でビッグになろうぜ!それでお前も幸せになれるぞ。平凡だけど、奥さん貰って、子供作ってさ。最初は給料安いかもしれないけど、頑張ろうぜ!」
「いや、ちょっと待って。何を言っているか吾輩には解らんのだが」
と、勇者がいきなり夢とかを語りだしたので、満身創痍の魔王は混乱したのです。
実はこの勇者は、異世界から来たベンチャー企業の社長でした。
異世界の「チキュウ、二ホン、ロッポンギ」と言うところでIT関連のみならず、派遣業者の会社も立ち上げていました。勇者はこの異世界がまだ十七世紀の生活水準で、インターネットが普及していないこと、魔法が使える人口よりも、魔物が使う魔法の方が圧倒的にコストパフォーマンスが良い事。そして、大人気ゲーム「龍の探索(えいごでよんでね)」をやりこなし、自分ならこうする、というビジョンがあったのです。
だから最初から勇者は狙っていたのです。
【魔王を倒さず部下にする】というクエストを発生させると!
そして魔王は何故か、ドキドキしていました。
だって魔王はいつも生まれてからずっと、自分で部下を集め、お城を作り、魔物をまとめていましたが、いつだって孤独だったのです。
魔王は崇められたり、疎まれたりはしても、誰かと対等に仲間になるなんてありません。
それがどうでしょう!自分の宿敵である勇者が自分に初めて、仲間になれと言ったのです。
高鳴る気持ち、これはなんだろう、そう思ってハッとしました。
(恋…なの?)
こんなことは魔王に生まれて始めてです。そこで魔王は精一杯、優しく答えました。
「ク……ククク、貴様は吾輩に何をさせるつもりだ?」
「なにを?そうだな、君には……」
十年後、異世界はインターネットが世界中で繁栄し、派遣業と、インターネットで大変儲かった異世界初のIT企業【禁断の果実】は大成功をおさめていたのです。
勿論ロゴは、赤い、木になっていて、ニュートンが果実を落ちるのをみて万有引力を発見したり、アダムとイブが食べたりした、アレです。
十年後の社長は30後半のチャラくていい男になっていました。わざわざスーツを作らせて、社員の制服にしています。そして魔王は、人間の恰好をしていました。魔王の姿では皆が怯えますし、なにより人間の五倍はあるので大きすぎて会社に入らないのです。魔王が人間になると、40代半ばの苦み走った良いおじ様になるのです。メガネはオプションです。魔王はあれから、魔物を説得し、より良い世界を作ろうと奮闘しました。
おかげで今では魔物は退治するべきものではなく、人間の良き隣人として生きられるようになったのです。魔王は【禁断の果実】の魔物派遣事業の本部長です。適材適所に魔物を送り込み、報酬を受け取るのです。今日は社長室で、【禁断の果実】IT事業部の元勇者のパーティにいた魔導士のクリスと三人で話し合いです。
「いやあ、みんなのおかげでこの会社は順風満帆だよ!ありがとう!」
と、社長が笑顔で皆にお礼を言うと魔王はフン、と顔を赤らめながら勇者に言いました。
「ふん、当然の結果だ。吾輩にかかれば前年度120%越えなど朝飯前……!」
「本当にすごいよ!流石俺が見込んだだけの事はある!」
そう言って勇者はうっとりと魔王の手を取って握りました。キラキラと目を輝かせながら言いました。
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