第一話 初めての食事会

3/15
830人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
 雫が大学を卒業した途端、父は組の跡目を雫に継がせた。  面倒な仕事はさっさと雫に押し付け、自分は祖父とアダルトグッズの会社を起こして、自由なセカンドライフを謳歌している。    去年の誕生日は最悪で、雫は、祖父と父から自社で作っている大人の玩具をプレゼントされた。 「雫よ、新作のブルートゥース内蔵ローターじゃ!」 「パワフルで遠く離れたパートナーの声にも連動、振動、そして感動、星五つのレビュー連投、どうだ! 雫! 最高の誕プレだろう!」  赤いリボンでラッピングされたピンクの箱を差し出され、ドヤ顔をする祖父と父に、雫はドン引きした。 「誕生日プレゼントに、なにこれ……父さんも爺ちゃんも、頭おかしいんじゃないの?」 「これを使って女を喜ばせ、さっさと女を孕ませて、跡継ぎを作れ」 「……また、それ?」  大学を卒業した途端、祖父も父も口を開けは孕ませろ、孕ませろとうるさい。 「組長たるもの、あっちの方もパワフルでないといかん」 「組長は関係なくない?」 「夜の方のお前が心配だから、爺さんと考えてこれを」 「僕の好きな和菓子とかなら嬉しかったよ! 二人共、もう二度と、僕の誕生日祝わなくていいから!」  叱られ、しょげて和室から出て行く二人を睨みつけながら、雫は大きくため息をついた。 「式島、それ、見えない所に持ってって」 「はっ」  幼なじみであり雫のボディガードでもある式島が、正座したまま頭を下げ、ピンクの箱を命じられるがまま、そっと懐にしまう。 「ああ……僕もさっさと引退したい……」 「孕ませますか。調達しますよ、女」  式島が真面目な表情で答えた。 「いや……それは、いい」  根本的に無理な話だった。  雫は同性の男に惹かれる人間で、しかも抱かれたい側なのだから。 (関東半分を牛耳る坂月組、五代目組長が、男に抱かれたがっている、だなんて) (しかも、そのせいで二十四にもなっても童貞なんて)  指を全部切り落とされても白状するわけにはいかないのだった。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!