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雫が大学を卒業した途端、父は組の跡目を雫に継がせた。
面倒な仕事はさっさと雫に押し付け、自分は祖父とアダルトグッズの会社を起こして、自由なセカンドライフを謳歌している。
去年の誕生日は最悪で、雫は、祖父と父から自社で作っている大人の玩具をプレゼントされた。
「雫よ、新作のブルートゥース内蔵ローターじゃ!」
「パワフルで遠く離れたパートナーの声にも連動、振動、そして感動、星五つのレビュー連投、どうだ! 雫! 最高の誕プレだろう!」
赤いリボンでラッピングされたピンクの箱を差し出され、ドヤ顔をする祖父と父に、雫はドン引きした。
「誕生日プレゼントに、なにこれ……父さんも爺ちゃんも、頭おかしいんじゃないの?」
「これを使って女を喜ばせ、さっさと女を孕ませて、跡継ぎを作れ」
「……また、それ?」
大学を卒業した途端、祖父も父も口を開けは孕ませろ、孕ませろとうるさい。
「組長たるもの、あっちの方もパワフルでないといかん」
「組長は関係なくない?」
「夜の方のお前が心配だから、爺さんと考えてこれを」
「僕の好きな和菓子とかなら嬉しかったよ! 二人共、もう二度と、僕の誕生日祝わなくていいから!」
叱られ、しょげて和室から出て行く二人を睨みつけながら、雫は大きくため息をついた。
「式島、それ、見えない所に持ってって」
「はっ」
幼なじみであり雫のボディガードでもある式島が、正座したまま頭を下げ、ピンクの箱を命じられるがまま、そっと懐にしまう。
「ああ……僕もさっさと引退したい……」
「孕ませますか。調達しますよ、女」
式島が真面目な表情で答えた。
「いや……それは、いい」
根本的に無理な話だった。
雫は同性の男に惹かれる人間で、しかも抱かれたい側なのだから。
(関東半分を牛耳る坂月組、五代目組長が、男に抱かれたがっている、だなんて)
(しかも、そのせいで二十四にもなっても童貞なんて)
指を全部切り落とされても白状するわけにはいかないのだった。
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