第一話 初めての食事会

4/15
834人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
 そういう訳で、今年の誕生日は誰にも祝われることなく黙々と趣味の和菓子作りに没頭していた所、式島に誘われたのだ。 (でもまさか、こんなイケメンとアフターなんて……)  ちらり、と横目で見ると、貴幸と目が合い、ふ、と微笑まれる。 (か、か……カッコいい……! 王子様がリーマンに転生したら、きっとこんな感じだ……) 「式島に年下の幼なじみがいることは聞いていたけれど、こんなにも着物の似合う美しい人だったなんて、早く紹介して欲しかったな」 「!」  お世辞でも嬉しいと、かあっと頬が熱くなる。  残念ながら、雫は祖父のような腕力や、父のような話術、どちらも組長としての才がない。  なので、褒められたことがほとんどない。  唯一、手作りの和菓子だけは評判が良いので、組同士の抗争や昔から世話をしている芸能事務所の諍いに「これでも食べて、仲直りして下さい」といそいそと作っては渡し、そそくさと帰るので、頼りない、大丈夫か、と心配されている。  整った顔立ち、透き通る肌、ほっそりとした着物姿は、黙って立っていれば水仙の化身のようだと噂され、母の盆法要に来た住職も思わず喉を鳴らすほど、雫は見目『だけは』よい。   だが、強面の男達に囲まれ育ったせいか、せっかくの良い顔も、表情筋が硬く、口下手で愛想もない。  なまじ綺麗なせいか、笑えば夜叉だと言われ、どう笑ってよいのか分からずすぐに唇を噛む姿が、ますます周囲を戦慄させる。  パワフルでもなく、交渉上手でもない、組長失格で心配されている自分が、こんなイケメンに褒められる日が来るなんて。   冷静さを装い顔には出さないが、思わずニヤけそうになる唇を噛み締め、胸中は歓びで震えている。 (今日は人生最高の日だ……!) 「綺麗な子だろ?」  そう言って式島は、ほほ笑む。 「ああ。式島からラインで坂月さんの写真が来た時、ドキッとしたよ」 「!」
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!