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「コンビニで大ヒットしているS製菓のクッキー、あれ、お前の案なんだって?」
「ひんやりクッキーのことか。そうだな、ありがたいことに評判いいみたいだ」
「大ヒット……!」
イケメンで、謙虚で、仕事も出来るのか。
(こんな人が、モテないわけがない……)
貴幸は表情をやわらげ、雫を見た。
「企画部が本命だったので、新商品の開発に燃えてます」
そう言って雫にガッツポーズを見せる貴幸が、まぶしい。
リラックスしたのか、自分の腹が鳴り、今度は顔が真っ赤に染まる。
(さ、最悪)
「俺の話は、これぐらいにして」
取り分け用のスプーンを手に取り、貴幸はパエリアを均等に小皿に分け、最後に一番大きなムール貝をのせた小皿を雫の前に置いた。
「あ、雫さん。ムール貝お好きでしたか?」
「は? ええ、まあ」
「湯浅、こんな風に出されたら、嫌いとは言えないだろう」
式島があきれたように頬杖をつく。
「ああ、同僚からもよく言われる。お前はもっと、順番通りやれって」
「順番?」
雫が首を傾げると、貴幸は苦く笑った。
「プレゼンでも、俺、最初に結論をぶん投げちゃうんで。先入観持たれて企画が通らなかったらどうするんだって叱られます。実際、ひんやりクッキーも、危なかったんですよ。焼きたてのクッキーが売りのうちの看板に、喧嘩売ってるのかって」
「どうして最初に言ってしまうんですか?」
「大事なことは先に伝えておきたくて。まあ、せっかちなんです」
ブルスケッタをがじりながらウインクを投げてきた貴幸に、かあっ、と体温が上がる。
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