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弾む心とは裏腹に、断る理由なんてないし、と照れ隠しでつい、いいそうになった余計なひとことを、なんとかこらえた。
「雫さんは、どんなお仕事を?」
「えっ」
貴幸の直球の問いに、弾む心臓がぶすり、と刺される。
「ち、仲介……?」
「不動産ですか?」
「いえ、人です。仲人、かな」
人間関係を仲立ちする人。
シマ、組同士の抗争、芸能人同士のトラブル解決。
(ん? なんか違う?)
雫は首をひねった。
「仲人さんって、パートナーを紹介したり、結婚まで世話をしてくれる、あの、仲人さんですか?」
目を輝かせる貴幸に、違います、もめごとの火消し屋です、とはいえなくなってしまった。
「はい。祖父……ではなくて、祖母の代からの縁で」
「素敵ですね。お着物なのは、普段、仕事で着てらっしゃるからですか?」
「え? ま、まあ、そんなところです」
間違ってはいない。祖父から受け継いだ、組長の勝負服だ。
「じゃあ式島も? 前に幼馴染の雫さんと一緒に働いてるっていってたよな」
「!」
式島の方を見て、ごめん、上手くごまかして、と目配せをする。
「ああ。仲人の他に新婚旅行先のチケット手配や、縁のある格安ホテルの紹介とか、手広くやってる」
さらりと返す式島に、ほっとし、なるほど、と頷く。
芸能人のお忍び旅行のおぜん立てや、マスコミ対策ばっちりの宿の手配など、確かに色々やっている。そっちに寄せればよかったのか。
「じゃあ、雫さん、聞いていいですか? 都内の結婚式場で、どこかおすすめってありますか」
「けっこ、ん」
ガン、とショックを受けた。
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