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第一話 初めての食事会
東京丸の内のタワービル、半地下にあるビアガーデンレストランで、坂月雫は緊張していた。
場所柄かスーツ姿の男女で埋め尽くされていて、着物姿の雫は急に気後れしてしまう。
「湯浅の奴、まだ来ていないようですね」
「やっぱりスーツにすればよかった。着物なんて、ここじゃあ浮いている気がする」
「着物はクールビズです」
「え――?」
涼しげに答える三歳年上の幼なじみ、式島は、ぼっちで誕生日を迎えるという雫を大学時代の友人との食事に誘ってくれたのだ。
「湯浅は都内の製菓会社に勤めている会社員で、気さくな男ですよ」
「へえ……」
そう言って見せて貰ったスマホの写真に、雫の鼓動が跳ね上がった。
「うそ! めちゃくちゃ、イケメンじゃん!」
「そうですね。大学で一番モテていました」
「ちょっと待って。式島だって超イケメンなのに、式島を抜いて、一番?」
「ええ。あ、来ましたよ」
式島が手を上げ、どきりとする。
「遅くなった、ごめん」
後ろから聞こえた低音の甘い声に、雫の心臓が跳ねた。振り返ると、群青色のネクタイが雫の目に飛び込んで来た。
長い眉、くっきりとした二重、吸い込まれそうな強い瞳。穏やかにほほ笑む口元には甘やかな色気があり、精悍な顔立ちを温和に見せている。
ウエイターがトレンチにのせて運んできたグラスを大きな手で丁寧に受け取り、面映そうに目を細め、男は雫に優しくほほ笑んだ。
その瞬間、雫の胸からタワービルを吹き抜ける風のような高揚感が舞い上がった。
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