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兄は、天子の密命を放棄し、多額の褒賞だけを得て逃亡した。天子を謀った罪に連座し、処刑されると聞き、二郎は命がけで反論した。
――兄は逃げたのではなく、何かの理由で戻れないのかもしれない。自分が兄を捜す。あるいは、兄の代りに密命を果たせば、罪のない兄嫁の命は助けて欲しい。
二郎の上奏に、天子はわずかに心を動かすものの、与えられた猶予はわずか、一年であった。
五月の汗ばむような日に故郷を離れ、南へ南へとひたすら旅して、霊山を望む街に着いたときには、木枯らしも冷たい真冬に入っていた。
すでに、期日まで半年を切っている。ここから都に戻る日数を考えれば、あと、ひと月ふた月ほどしか猶予はない。天子の暴虐の噂は都を離れた耳にも届き、薄い斗篷をまとっただけの身体は、絶望と焦燥が灼けるように渦巻いていた。
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