壱、霊山

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 過年(としこし)に向けて賑わう霊山の麓の(いち)で、二郎は北方訛りの男の噂を耳にする。山中で修業を積んだ仙人との触れ込みで、ふらりとやってきては珍しい薬草を売っていたと。背が高く、教養のある士大夫風で、薬草と賢聖の書の知識が豊富。――方士であった兄に、似ている気がする。  探しに行こうと道を尋ねる二郎を、しかし邨人(むらびと)が止めた。  霊山は女神の住まう山。特に冬は雪に道を塞がれ、人の出入りを拒む。せめて雪解けを待てと。  だが、期限は刻々と迫り、春まで待っていては間に合わない。北方訛りの薬草売りの男が兄なのか、もしくは兄ではないのか、他に確かめる手段もなく、二郎は邨人の止めるのも振り切って、単身、雪山に分け入った。
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