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「あれはその果実をもぎ取り、懐に入れてその崖の際の細い道を駆け下りようとしたが、果実は黄金に変わり、とてもではないが懐に入れられる重さではなくなった」
黄金は、重い。兄は抱いた黄金の果実の大きさと重さに耐えきれず、崖の下に転がり落ちて死んだ。
「俺は、黄金も、不老不死も欲しくない。ならば、俺がこの果実をもいでも、天子の望む不老不死の薬にはならぬ、と言うことか」
「そなたが心の底より、天子の不老不死を望めば、そうなる」
天子の暴虐は日に日にひどくなる一方だった。かの暴君が不老不死となれば、民の地獄は永久に続く。
「そんなのは、困る。俺は――」
今の天子の世は、理不尽だ。旅の途中でどれほど、民の怨嗟の声を耳にしたか――
「ならば、何を望む?」
「俺は――新しい、世を――」
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