女子高生、ペンギンの母になる

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 受験に失敗し、やむなく入学した底辺高校は、酷い環境だった。授業中にスマホをいじったり、こっそり音楽を聴いたりするなんて可愛い方。授業中に男子が喧嘩を始めたり、カップルがキスを始めたり、猿の学校なのかと思う。……それは猿に失礼か。  染髪上等、ピアス上等と派手なクラスメイトたちは、怒らせたらすぐに手が出る。いじめのターゲットになったらと想像するだけで恐ろしい。たった三年我慢するだけだから、と自分に言い聞かせ、波風を立てずにやってきた。  高校三年の夏とともに部活が終わり、放課後もクラスメイトと喋って時間を潰すようになった。でも、今は一刻も早く帰りたい。ツナマヨが待っているから。 「幸子(さちこ)、帰んの?」  玲菜(れいな)が私を見て、不満げに言った。玲菜はクラスのリーダー格、否、スクールカーストのトップ。誰も彼女には逆らえない。胸までかかる茶髪を指にくるくると巻き付けている。 「ごめんなさい」  私は両手を合わせ、眉を思いっきり八の字に下げる。玲菜の機嫌を損ねたら、階段で後ろから押されるくらいのことは覚悟しなければならない。 「彼氏と会うの?」 「違います、本当に」 「好きな人ができたら報告しなさいよ」  玲菜はクラスメイト全員の好きな人を把握している。彼女がカーストの最上位に君臨しているのは、クラスメイトの秘密、つまり弱みを握っているからでもある。  我らが猿未満の高校では、片想いの秘密は大きな弱みになる。玲菜が秘密を漏らせば全校生徒が知るところとなり、大きく囃し立てられながら告白を強要される。青春における死だ。  高校に入ってから、私には好きな人などできたことがない。玲菜はそれが気にくわないのか、よく私に絡んでくる。 「分かってます、本当にいないんです、ごめんなさい」 「へえ、幸せ太りなんだと思ってたわ」  心配するような口調ではあったが、口角がわずかに上がっていた。
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