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俺が気を取り直してテントの中にあった懐中電灯を点けると、辺りがぱっと明るくなる。
明るい所で見ると、やっぱり二人共整った顔立ちをしていた。
「遅くなったけど、助けてくれてありがとう」
俺が二人に礼を言うと、どう見ても女の子にしか見えない男の子は、本当に女の子だったら惚れること間違いなしの笑顔で言った。
「どういたしまして。僕はキランって言うんだ。こっちはルア。君の名前は?」
「快晴」
聞き慣れない言葉だったみたいで、キランとルアが揃って訝しげな顔になった。
「カイセイって変わった名前だけど、どういう意味?」
ルアの質問に、俺は少し戸惑った。
日本じゃ自己紹介の時に名前の意味を訊くことはあまりないけど、もしかして由来を訊いてるつもりなんだろうか。
でも、自分の名前の由来なんて、父さん達に訊いたことがないからわからなくて、俺は素直に自分の名前の意味を答えた。
「『雲がほとんどない、いい天気』っていう意味なんだ。二人の名前はどういう意味?」
俺がそう問い返すと、キランが答えた。
「キランは『光をもたらす』、ルアは『高み』っていう意味だよ」
なるほど、『光(ひかる)』と『高志(たかし)』みたいな名前な訳か。
俺がちょっと親しみを感じていると、ルアが問いかけてくる。
「ねえ、カイって呼んでいい?」
「いいよ」
ルア達の他にも、俺を「カイ」と呼ぶ友達はいた。
俺には友達が少なかったから、そう呼ぶ友達は片手で数える程だったけど。
でもみんなとは不登校になったのをきっかけに疎遠になって、今じゃ一人もいなくなってしまった。
別に何か言われたりした訳じゃないけど、何となく引け目を感じて、連絡を取り辛くなってしまったのだ。
今、みんなはどうしているだろう。
俺のことなんて、思い出すこともないんだろうか。
俺はふとした時に、こうしてみんなのことを思い出すけど。
だんだん寂しい気持ちになってきて、俺はこれ以上考えるのをやめた。
せっかく旅に出てきたんだから、旅に出る前のことを引きずるのはやめよう。
そうでないと、何のためにここにいるのかわからなくなる。
俺が気持ちを切り替えようとしていると、ルアがテントを覗き込みながら問いかけてきた。
「ねえ、カイはここに住んでるの? 他の家と随分違う感じだけど」
まるでテントを知らないみたいな口ぶりに、ちょっと違和感を覚えたけど、外国人なら国によっては知らなくてもおかしくないのかなと聞き流して、俺は答えた。
「別にここに住んでる訳じゃねえよ。旅の途中なんだ」
「じゃあ、僕達と一緒だね」
ルアがそう言った。
まさか旅仲間だとは思わなかったけど、テントを知らないなら、ホテルを転々としているんだろうか。
二人共育ちの良さそうな雰囲気を漂わせているし、結構いい家の子達なのかも知れない。
「キラン達はどこに行く訳?」
俺の質問に、ルアは答えた。
「ただふらふらしてるだけ。当てのない旅だよ」
見知らぬ土地をノープランで旅するなんて、几帳面そうに見えて意外と大雑把と言うか、度胸がある奴だ。
まあ、俺だってしっかりした計画を立てている訳でもないし、あまり人のことをどうこう言えないけど。
「カイはどこに行くの?」
ルアにそう訊き返されて、俺は答えた。
「愛知のおばあちゃん家に行くんだ」
「アイチかあ。そこって遠い?」
落ちていた小石で器用にジャグリングをしながらのキランの質問に、俺は小さく頷いた。
「それなりにな。観光しながら行くつもりだし、着くのは何日も先だよ」
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