通りすがりの幽霊

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通りすがりの幽霊

「海里」  塾帰り。八時を過ぎたのに電車は満員状態。  いつものことながら、マサトとの距離が近い。  停車する度、乗り込んできた乗客にグイグイ背中を押されるからだろうけど、ドアに右手を突いて体を支えるマサト。ドア側に立つ俺からするとマサトに囲われてる感じになって、毎度ながらちょっと焦ってしまうのだ。  他の乗客の迷惑にならないよう小さな声で名前を呼ばれるのも……。  俺より若干、十センチくらい? 背の高いマサトへチラリと目を向けた。 「う、ん? なに?」 「これ傑作」  携帯を見ると、画面には猫が飼い主とじゃれ合ってる画像。飼い主が仰向けの猫に手をかざすと空振りの猛烈な足キックをして、急にピタッと止まる。ハッとカメラを見る顔が素っ頓狂でまぬけ顔。しばらくしたらまた足キック。そしてまたハッとカメラ目線。もう一匹の猫がなんにも気にせず素通りしていくシュールかつ可愛い画像。 「プッ、なにこれ。可愛すぎ」 「海里んちの猫に似てね?」 「え、そお? 左之助こんな顔しねぇよ?」 「柄似てるよね」 「この種類、ハチワレっていうの」 「また会いたい。今度一緒に勉強しよ。海里んちで」 「おお、いいよ?」  前回うちへマサトが遊びに来たのは一学期の終わりだった。確か、あの時もテスト勉強しに来たんだっけ。  マサトはアイスを買ってきてくれたのだけど、猫を飼ってると話したら、わざわざ猫チュールも買ってきてくれた。とってもいいヤツ。  マサトは猫や犬や動物が大好きなのだけど、なんでも弟が喘息持ちでペットが飼えないらしい。うちの左之助で良ければ、いつだって遊びに来てくれていいんだけど……ああ、でも……うーーーん。  前回遊びに来た時のマサトを思い出した。  マサトの持つチュールにつられ、鼻をヒクヒクさせて近づく左之助に目をキラキラ輝かせていた。膝に前足をかけてチロチロ舐める左之助にはデレデレの表情。そのあとも左之助にずっと夢中だったし、俺としては、なんか虚しいっていうか、羨ましいっていうか……とにかく俺の家なのに、俺の猫なのに、俺と約束したのにずっとひとりぼっち。蚊帳の外感が半端なかった。それくらいの左之助とイチャイチャしてた。  また、ああなっちゃうんだろうなぁ。いや、いいんだけどさ。可愛がってくれてんだから。左之助も懐いていたし。 「じゃ、またー」  駅に着き、手を上げ電車から降りる俺を見送るマサト……を駅から見送る。マサトの姿はあっという間に見えなくなった。結局、微妙な返事で終わっちゃったな。「いつでも来いよ!」って気持ちよく言っちゃえばいいのに。ちょっと嫌そうな感じに聞こえてなきゃいいけど。
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