通りすがりの幽霊

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 その日を境に女の影は現れなくなった。  結局あの女がなんだったのか分からない。ちょろっとマサトに話したことがある。マサトは「それ、幽霊なんじゃないの?」と言ってたけど。どうなんだろう。  でも、あの時の俺は受験のストレスと卒業までのカウントダウンの中で、自分たちに未来なんてないってわかっていながらも、どんどんマサトを好きになっていく気持ちでパンパンに苦しくていっぱいいっぱいだった。  もしかしたら、あの苦しさに共感した幽霊が憑りついてきたのかもしれない。心が病んでると自殺した霊に引き寄せられるってなんかで聞いたことがあるし。  だからあの女の霊は今も、見えなくなっただけで、コンビニの前でひとり苦しんでるのかもしれない。  確かに俺はあの日、マサトを悲しませるような態度をとったのに何もかもがどうでもよくなっていた。実際そう思ったし。こんな状態が続くのなら、どうせ離れてしまうのなら自分からマサトと縁を切った方がいいんじゃないかって、自暴自棄になってた。憑りつかれたせいかなって思ったけど……。  電車の天井を超えるくらいのデカさまで大きくなってた女の幽霊。あの時彼女は泣いてた。その涙に触発されて、俺も泣いちゃったんだ。あの時彼女が現れていなかったら、俺はマサトと縁を切ってしまってたかもしれない。  だったら、彼女は――。  あの霊、まだ彷徨っているのかな。まだ、ひとりぼっちで。  ふと、パソコンに目を向ける。  悪夢ももうずっと見ていない。きっとパソコンが勝手に起動することも、もうないんだろう。けど……。  いつか、あの霊も地上の未練を忘れ、上にあがってくれたらいいなって思った。  了
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