通りすがりの幽霊

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 駅を出てしばらくは、電車を降りた人たちもチラホラいたけど、住宅街に入ってしまうと寂しいもんだ。いつの間にかポツンと一人になっていて、やけに寒々しい。  外灯が点々と並ぶ暗がりの先にコンビニの明かりが見えてくる。別にお腹がすいてるわけでもなかったけど、なんとなく明かりに吸い寄せられるように入ってしまった。俺は虫かよ。  まぁ、帰って風呂入ったら塾の課題もあるし夜食用になにか買っとくか。  コンビニを出て不意に目の端っこで何かが見えた。  チラッと目を向けると、ちょっと奥まった暗がりに影のようなものが立ってる。二メートルくらいあるデカイ影。ハッキリと見えないにも関わらず、それが髪の長い女だと感じた。同時に直感でヤバイ。見ちゃいけないやつだと思った。  影はこっちをジッと見ている。  俺は息もなくゴクリと喉を鳴らした。逃げろと警告が頭の中で響く。ギュッと目を瞑って動けと足に命令し、地を蹴った。そのままダッシュで家を目指す。無我夢中で走って家に飛び込んだ。 「海里?」  母さんの声にやっと呼吸が落ち着く。さっきみたいな妙な気配はなかった。「ふう」と一息いれ返事をした。 「ただいま」 「あ、うん。おかえりぃ。大丈夫?」 「うん、ランニングしてきただけ」 「珍しいわね。お風呂沸いてるよ」 「はーい」  気配はないけど、まだなんとなく俺の中に気持ち悪い余韻があった。  風呂行こ。  熱いシャワーを浴び、体をゴシゴシ洗った。ジャブンと湯船に浸かると筋肉が緩み、ぼわぁと溶ける気持ちいい感覚に目を閉じる。  ……はぁ~、さっきのはいったいなんだったんだろう。疲れてるのかなぁ……。勉強のしすぎ? それか……気疲れ? 別に気を使ってるわけじゃないつもりなんだけど。  マサトといると楽しい。それは変わらない。でも、同時に感じる焦りのようなもの。どうしようもないんだけどな。別に違う大学に行ったってそれが永遠の別れでもないんだし。  あ~ぁ、あつ……出よ。
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