シロクマの恋

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翌週、針金と白い粘土を準備した私はシロクマの製作に取り掛かった。 針金で芯となる部分を作って、その周りに白い粘土をペタペタと重ねていく。 粘土を重ねても重ねても写真のシロクマの足のような厚みがでない。 思った以上にシロクマの足は肉厚なのだ。 ふと、隣の席を見ると、彼の机の上には画用紙と尖った芯の鉛筆だけが置かれていた。 彼は頬杖をついてその真っ白な画用紙を悩ましそうに見つめている。 何を描くかまだ悩んでいるようだ。 彼は小さくため息をついて、窓の方を見つめた。 私もつられて窓の方を見た。 まずいっ——。 窓ガラスごしに彼と目が合った、ような気がして私は慌てて視線を逸らした。 彼は何かを思いついたように正面に向き直して、左手で鉛筆を持って画用紙に走らせた。 シャッ、シャッと音を立て、画用紙に薄い線で何かが描かれていく。 彼はもう一度窓の方を見て、再び正面に向き直してを鉛筆を動かす。 私は気付かれないようにそっと画用紙に視線を送った。 彼の冷たくて怪訝そうな目が画用紙に浮かんでいた。 彼は自分を描くことにしたのだと私は察した。 窓ガラスに時折映る彼の怪訝そうな表情から、それはナルシシズムによるものではなく、彼の中で自分を描くのが一番手っ取り早いという結論に至ったのだろうと私は思った。 私は彼のその純粋で無垢な発想に関心しながら、シロクマの足となるはずの粘土の塊に視線を戻した。 でこぼこした部分を消すように指先の柔らかい部分をぎゅっと押し当てた。
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