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その翌週、私はシロクマの胴体を作り始めた。
針金を無造作にぐるぐると巻いて胴体の芯を作り、白い粘土で覆っていく。
写真のシロクマのような堂々とした感じを出したくて、大きくちぎった粘土の塊を手のひらで丸めて針金にぎゅっと押しつけて伸ばしていく。
思ったよりも重厚感のある丸っとしたシロクマの胴体が出来上がった。
横に寝かせた状態で四本の足を粘土で繋げてみたものの、胴体が重すぎてこの足では支えることができないことに気がついた。
私は胴体の表面の粘土を糸で少し削り取り、足の付け根と爪先に削り取った粘度を付け足していく。
胴体と足のバランスが整ったところで、横に寝かせていたシロクマを立たせた。
——少し不安定だけれども、倒れることなく立った。
私はふうっと小さく息を吐いて、ちらりと隣の席の彼の机の上に視線を移した。
画用紙には、さらっとした質感の髪と前髪に隠れている眉、鼻筋が通った鼻とぷっくらとした唇、それらを覆う綺麗な顔の輪郭が描かれていた。
怪訝そうな眉間の皺と冷たい目元が彼らしさをよく表している。
彼の鉛筆を持つ左手が止まっていた。
視線を上げると、彼は朴杖をついて目を閉じていた。
窓から差し込む秋の繊細な日差しが彼の輪郭を照らし、長い睫毛が目元に影を落としている。
私は何故か胸がじんわりと温かくなった。
資料集で見たモネやゴッホの絵よりも心が動いた。
美しいものを見たような、神秘的なものを見たような感覚。
彼の薄い瞼がぴくりと動くのを感じて、私はすっと視線を自分の手元に戻した。
まだシロクマになれない足と胴体だけの奇妙な生き物が私の手元にはいた。
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