憧れの人

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「そんなに食べてない自覚はなかったんです」  朝を抜くことはよくあったが、昼食と夕食は食べるようにしていた。   「じゃあ、ちなみに昨日何食べたか言え。嘘はつくなよ」  なぜメニューの発表なんかしなくてはいけないのだろう。  しかし彼に医療費を負担させてしまったため、正直に答えようと思った。 「お昼は、パンの耳で作ったフレンチトーストと夜はおにぎりです!ほとんどその繰り返しです」 「お前、料理ができないのか?」 「できます!ただお金がなくて材料が買えないだけです!」    言った後に後悔してしまった。    昔から自炊はしている。  年相応、もしくは料理はできる方だと自分では思っていたため、湊さんの一言に反抗をしてしまった。 「あっ、すみません。今のは忘れて下さい。料理ができないだけです」  ふーんと彼は呟いた。  沈黙が続く。 「お前、とりあえず今日はこのまましばらく寝ろ?ここにいて心配するようなやつはいないんだろ?」 「でもっ!」    湊さんだって忙しいはず。  他人の部屋で一人、寝ているのはおかしい。 「安心しろ。俺は今日オフだし、ここにいる。書店の方も違うパートに頼んだから大丈夫だ」  そう言って彼は立ち上がり 「あっちの部屋にいるから。なんかあったら呼んで。無理に動こうとするなよ。いいな?」  が、一旦すぐ戻ってきて、ベッドサイドにスポーツドリンクを置き 「水分摂れよ」    彼なりの優しい言葉をかけて、部屋から出て行った。  店長の時やアーティストとしての湊さんとは全然違う。演技力に驚かされる。  私は、ここで休んでいていいのだろうか。  無理をして動いたら、絶対に湊さんに怒られる。  彼の言葉に甘えて、大人しく休ませてもらうことにした。  目を閉じる。    こんなふかふかのベッドに寝たのは初めてじゃない?そんなことを考えながら眠りについた。      何時間、眠っていたのだろう。  こんなにゆっくり眠れたのは久しぶりだった。  身体も先ほどより動くような気がして、起き上がってみる。 「あっ、動ける」  部屋の中をよく見ると、ここは寝室なのだろう、ベッドが一つと大きな本棚、小さな机とソファーしか置いていなかった。    部屋がいくつもあるのは、湊さんくらいになれば当たり前だろう。   「お礼を言いに行かなきゃ」    ベッドから降りて、彼がいるはずのリビングへ向かった。
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