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寝室のドアを開ける。
「湊さん……?」
彼の名前を呼んで、リビングと思われる部屋に入った。
「うわ、広い」
そこには大きな机とソファー、映画の中に出てくるような大画面テレビがあった。
物はそれほどなく、小物などの色も統一されており、落ち着いた雰囲気の部屋だった。
キッチンがあり、キッチンからもリビングを見渡せるようになっている。
「おお、起きたのか?」
湊さんは、ソファーに座って、楽譜を見ていた。
仕事は休みだと言っていたが、完全な休みなど彼にはないのだろう。
「はい、クラクラしないし……。おかげ様で良くなりました。ありがとうございます」
湊さんは楽譜を机に置き、私の方に向かって歩いてくる。
具合が悪くて朝の出来事はあまり覚えていないが、まじまじと彼を見ると、身長は高いし、顔立ちも綺麗。
切れ長の目、面長の顔、がっちりとした男性らしい身体つき。やはりカッコいい、近くで見て改めてそう感じてしまう。
「なんだ?」
私が無言で彼を見つめていたため、疑問の視線を向けられた。
はぐらかすのも難しいと考え
「いや、あの。やっぱりカッコいいなと思って……」
性格的に難ありなことがわかったが、容姿は私が追いかけていた湊さんそのままだった。
ふっと笑い
「当たり前だろ?」
自信があるのだろう、その表情は揺らがなかった。
「これから、飯を食べるぞ?」
「えっ?」
「お前が寝ている間に作った。医者からも消化の良いものなら普通に食べても良いと言われてる。口から栄養を摂るのが一番だ。俺が作った料理を食える機会なんてほぼないんだから、有り難く食べろよ?」
そう言って彼はキッチンに向かった。
「お前は、そこの机の椅子に座っていろ」
有無を言わさない。
彼の指示通りに、キッチン前の机の椅子に座る。
そこに運ばれてきたのは、野菜スープと少し柔らかいご飯、茹でた豚肉に味がついたもの、オレンジだった。こんな豪華なご飯、久しぶり。
彼も同じものを食べるようだ。
「いただきます」
彼は両手を合わせ、食べ始めた。
私が呆然としているのを見て
「おい、食べろ。せっかく作ったんだ、もったいないだろ?」
私も彼と同じように手を合わせ、いただきますと言った。
箸を持ち、一口、スープを飲んだ。
「美味しい……」
誰かが作ってくれた温かいご飯なんて、何か月ぶりだろう。
ここのところ、外食すらできなかった。
「美味いだろ?」
私の美味しいを聞いた彼は、にこっと笑った。
こんな優しい顔もするんだ。
次は、豚肉を食べる。
「美味しい……」
お肉を食べるのも久しぶりだ。
あれ……?どうしてだろう。
気づいたら、涙が頬を伝っていた。
「お前っ、何、泣いているんだよ」
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