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家賃、光熱費、食費が無料だなんて、心が動かされてしまう。
どうしよう。でも、この湊さんと一緒に生活ができるのだろうか?
むしろ、どうしてそこまでしてくれるの?
湊さんのファンからしてみれば、贅沢すぎる暮らしだ。ファンに見つかったら、私は生きていられるのかな。
「あと、俺がヒマな時は、お前の歌唱訓練をしてやってもいい」
「えっ!本当ですか?」
「あぁ。ヒマな時だけな」
憧れの人から、歌の指導を受けられる。
こんな夢みたいな話はない。
「その代わり、しっかり働いてもらう。お前がちゃんと仕事をするやつだってことは、アルバイトの時から知っているけど」
「よろしくお願いします」
私は深々と頭を下げ、彼にお願いをすることにした。
「あぁ。よろしく」
彼はにこっと笑った。
「でも、なんでそこまで助けてくれるんですか?」
こんな地味で可愛くもない貧乏学生をなぜ相手にするんだろう。
「それは、お前が昔の俺に似ていたからかもしれないな」
昔の湊さんに……?
「この話はもう終わりだ」
この後、私の予想よりもかなりハードな生活になることをこの時の私はまだ知らなかった。
一週間後、湊さんから
「決まったんなら、早く引っ越して来い。お前を家政婦に雇うから、今雇っている人はもう断った」
というせっかちな連絡が入った。
「お前の引っ越す日付とかもこっちで指定して、引っ越し業者に頼んだから」
湊さんペースで話が進んでいくため、私は部屋の片づけと成瀬書店のアルバイト、専門学校への通学と毎日時間に追われていた。
忙しい日々でもあれから体調を崩すことはなかった。
なぜならアルバイトをしている時、必ず店長の湊さんが食べきれないのでは?と思うほどの差し入れをしてくれたから。
私が成瀬書店の店長が有名アーティストの湊さんとわかってからも、彼が店長でいる時はウィッグとメガネは外さなかった。
だから、アルバイトをしている時はなんだか変な気分になる。
もちろん、アルバイト中は彼と二人きりになったとしても呼び方は「店長」である。
そうこうしているうちに、私は湊さんのマンションの一室に引っ越し、家政婦として働くことになった。
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