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湊さんが店長の姿に変装をした。
ウイッグとメガネだけでこんなに印象が変わるのか。彼が変装をするたびそう思う。
「さぁ、行くか?」
彼のマンション近くにスーパーがあった。
あまり安くはない。土地柄も関係していると思った。
高層マンションが多く、ブランドショップが並ぶこの街は、芸能人が何人も住んでいることで有名だった。
野菜コーナーを見ているが、以前住んでいたアパート近くのスーパーより、何十円も高い。
今度から成瀬書店のアルバイト帰りに、近くのスーパーに寄って帰ろう。
「今日は、唐揚げでいいんですよね?」
「ああ」
とりあえず、唐揚げに添えるキャベツと鶏肉を買う。
ムネ肉の方が安いが、湊さんはモモ肉の方が好みではないかと思い、カゴにモモ肉を入れる。
「お前、ちゃんと鶏肉状態から作れんのか?」
私が鶏肉をカゴに入れたのを見て、彼は驚いていた。
まさか、総菜コーナーにある唐揚げや冷凍食品の唐揚げをイメージしていたのだろうか。
「作れます。大丈夫です」
鶏肉状態という彼の言い方が面白かった。
「すごいな」
彼は笑った。
そんなことで褒められても……。
だが、悪い気はしなかった。
「あと、俺、好きなものがあるんだ」
「なんですか?」
アーティストとしてのプロフィールは一切公表されていないため、もちろんそういったプライベートな部分もファンであったが知らなかった。
というか、湊さんって年齢はいくつなんだろう?
「その前に、湊さんって年齢いくつなんですか?」
「俺?二十七だけど……」
「えっ!二十代なんですか?」
思わず大きな声を出してしまった。
「おい、老けて見えるってことか?」
ご機嫌が悪くなってしまったらしい。
「いえ、あの……。しっかりしているからもっと年上かと思っていました」
私と四つしか違わないのに、背負っているものがかなり違う。尊敬してしまった。
「公式で公表してないもんな」
「すみません。話がそれてしまって。湊さんの好きな食べ物ってなんですか?」
「俺、見かけだけで甘い物嫌いだと決めつけられるんだけど、甘い物が好きで……。絶対食後はデザートをつけてほしい」
彼の言葉を聞いて、思わず、あはっと笑ってしまった。
「なんだよ。おかしいか?」
「いや、二十七歳って聞いて、自分と四つしか違わないのにいろいろすごいなって尊敬したんですけど、食後のデザートっていうこだわりのギャップが面白くて……」
「悪いかよ……」
なんだ、可愛いところもあるんだ。
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