憧れの人

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 今日のアルバイトは、午後から閉店までのシフトだった。開店時からいるパートの人と交代をする。 「私のいる時は売上がなかったよ。それにしても、よくこのお店やっていられるわよね」  私が働く前からいる中年の女性パートさんだった。  そういえば、最近立ち読み客ばかりで売上がほとんどない。それは私も感じていた。 「店長に聞こえちゃいますよ?」 「ああ、店長は朝からどこかに出て行って、今日はいないよ」 「最近、この店がいつ潰れるか心配でさ……。私、パート辞めようかと思っているのよ。でも、こんな楽なバイトはないし」    そう愚痴のような不安を漏らしながら、パートさんは帰って行った。  私もいきなり明日から来なくていいなんて言われてしまったら、本当に生活ができなくなってしまう。売上について、店長が帰ってきたら意見を聞いてみよう。  閉店間際、店長が帰ってきた。 「お疲れ様です」  私は閉店準備をしていた。 「お疲れ様」  一言、そう言うと彼は二階へ上がって行く。  なんだか今日は挨拶が素っ気ない。  いつもはもう少し丁寧なのに。 「あのっ」  私の声が聞こえなかったのか、そのまま二階のドアが閉まった。  閉店したら、帰りに寄って行こう。    二十二時を過ぎ、お店は閉店をした。  売上が落ちていることと、今後のお店のことを店長に聞きたくて二階へ上る。  しかし「立ち入り禁止」の看板が掛かっていた。  どうしよう。でも、明日から解雇って言われても困るし。 「店長?すみません。お話したいことがあるんですが?」  ノックをして、声をかけてみる。返答はない。  もう一度ノックをする。 「店長?」  何も反応がない。  面接の時の約束を思い出したが、生活がかかっている。 「すみません。開けますよ?」    何も聞こえない。 「失礼します」  部屋に入ると、ベッドとソファーがあった。  物はあまりない。  そこにいるはずの店長はいなかった。    代わりに知らない男性がベッドではなく、ソファーで横になって寝ていた。  後ろ姿だったため顔が良く見えないが、金髪の髪の長い男の人。  誰だろう?店長の友だちとか?  でも、おかしい。  そんな人、お店に入ってきたら裏口からでもわかるはずなのに。  起こさないように、そっと男性の顔を覗き込んだ。 「きゃあー!!!!!!」  あまりの衝撃に悲鳴を上げてしまった。  えっ?えっ!えっ?  どうして!?  そこに寝ていたのは、私の大好きなアーティストの湊さんだった。  思わず腰を抜かし、床にしりもちをついてしまった。そして、その場から動けない。 「っんだよ、うるせーな」  私の声で湊さんの目が覚めちゃった。  あんなに叫んでしまったのだから、起きてしまうのは無理もない。
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