最終話

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最終話

 それから一カ月後ーー。 「奏多さん、起きてください!仕事遅れますよ?朝ご飯は、いつも通りですからね!」  寝ている彼を揺さぶる。  奏多さんとは正式に付き合うことになったが、生活はあまり変わっていない。  ただこの変わらない「普通」の生活が幸せなんだと毎日感じている。 「んー。もうちょっと……」 「ダメです!今日は、午前中から打ち合わせでしょ?」 「……」 「私、学校遅刻しちゃうんで、先に行きますからね!」  そう言って彼の部屋を出ようとした。 「花音……。行ってらっしゃい」  彼はまだ枕にしがみついたままだが、声をかけてくれた。 「行ってきます!奏多さんも仕事頑張ってください」  マンションを出て、通学をする。  いつも通り学校が終わり、今日は成瀬書店のアルバイトだ。  アルバイトも何も変わらない。  が、今日は久しぶりに何冊か本が売れた。  嬉しい出来事だった。  閉店の準備を一人で行っていると、私の大好きな人の歌が店内のラジオから流れてきた。  ラジオのパーソナリティーが紹介を始める。 <今日のリスナーさんからのリクエスト曲は、湊のLast Song です>  私は作業の手を止めて、聴き入ってしまった。 「あー、やっぱりいいな。上手だなー。すごいな」  カウンターに座り、頬杖をつきながら目を閉じて曲を聴く。もちろん、店内にお客さんがいないからできることだけど。 「困りますね。仕事中ですよ?」  やばい、その声は……。 「すみません。店長」  後ろを振り向くと、私の大好きな人が立っていた。 「今日は、仕事早く終わったんですか?」 「あぁ。もう閉店して、帰るぞ」  二人で片づけて、彼のマンションに帰宅しようと変装をしている奏多さんと手を繋いで歩く。 「今日の飯なに?腹減った」 「今日は、ハンバーグです」 「マジか!楽しみ」  彼のご機嫌は良い。 「奏多さん、ちょっとかがんでください?」 「なんだよ?」  そう言いながらも、彼は私の言葉通りかがんでくれた。  私は彼の肩に掴まって、頬にキスをした。  付き合って一カ月。  頬にだけは、自分からキスできるようになった。  彼は私の行動に微笑んでくれる。 「帰って、飯食べて、風呂入ったら、今の続きな」 「えっ?」 「お前が悪い」  彼がギュッと私の手を強く握った。  これから幸せなことばかりではない。  きっといろんなことがあると思う。  でも、彼と一緒なら乗り越えられる。  私はそう信じている。 <終わり>
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