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「それはそうですけど。雑誌のインタビューとか、たまに出るテレビの時とかの話し方はとても良い人を印象付けるような話し方でしたし……」
「あれは、事務所とか大人の事情があるんだよ」
なんか不思議だ。
あれほど大好きだった人がこんなに近くにいるのに、緊張せずに会話ができている。
そろそろ帰らないと、甘えてはいられない。
あとで、医療費とか請求をされるのだろうか。
恐くて聞けない。
そして、アルバイトはやはり解雇という形になるのかな。
立ち入り禁止の約束を破ってしまったし。
私はベッドから上半身をなんとか起こし、布団から出ようとする。
が、それもまだやっとだった。
「おい、どうした?」
湊さんが私の行動を見て、動くなと制止をする。
「このままお世話になっているわけにはいきません。帰ります。医療費……とかはすぐにお支払いできませんけど、必ずお返ししますから。あと、アルバイトの件なんですが……。私は約束を破ったわけですし、解雇という形でいいですか?」
湊さんはしばらく考えた後
「お前は辞めたいの?バイト」
真剣な顔をして私に問いかける。
俯きがちに答えるしかなかったが
「私は、辞めたくはありません。あの本屋さん好きですし。でも、面接の時の……」
「お前が辞めたくなかったら、辞めなければいい」
彼は私の言葉を途中で遮った。
「お前が他のパートとかと違って、ちゃんと仕事をしていることは知っている。客がいない時も本の整理や消毒をしてくれているし、ブームによって売れ行きが変わるから、それを考えて本の配置も変えてくれているし」
「だから辞めるな」
湊さんと目が合う。
口調は俺様だけど、本当は優しい人なのかもしれない。
そして、長年追いかけてきた人だけあってよく見るとやっぱりカッコいい。そう思ってしまった。
私の顔が紅潮する。
「おい、お前。顔が赤いけど……。熱が出てきたのか?」
そう言って彼は、私の額に手をあてた。
さらに顔が赤くなってしまった。
「大丈夫です。これは、恥ずかしいだけで……」
「何が恥ずかしいんだよ?」
湊さんって、天然なのだろうか。
「湊さんに、おでこを触られたからです!」
「おっ、おぉ……」
彼は戸惑っているような表情をし、なぜか彼も少し顔が赤くなっているように見えた。
「じゃあ、アルバイトは続けさせていただきます。ありがとうございます」
「あぁ。ただ、一つ条件がある」
きっと、二階には行くなという条件だろう。
「はい、わかっています。二階にはもう行きません」
「違う。これからはちゃんと飯を食え。また倒れられても困る」
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