血塗れの淑女

4/16
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/188ページ
「口に合わないかい?」 「いいや……この間参加した舞踏会の食事よりも、よほど美味いのは、知っているよ」  オズヴァルトは、女性のドレスや宝飾品の製作・販売を行う大店、マイユ商会の三男坊だ。上の二人とは母親が違うことは、彼が兄たちとはまったく似ていないことから、すぐに知れる。  第一、オズヴァルト自身が最初から隠し立てしていない。三男かつ元々愛人の子である彼は、商会を継ぐことはない。  たとえ、兄たちよりも見目麗しい美丈夫である彼が店に立っているときの方が、売れ行きが好調であったとしても、覆ることはない。  一歩間違えば、兄たちから冷遇されてもおかしくない立場の彼であるが、今をもってピンピン生きていられるのは、ひとえに彼の処世術のおかげである。  オズヴァルトの母親は、隣の国の貴族出身であった。彼女がマイユ家の若旦那(つまり、オズヴァルトの父)を大層気に入り、酒を大量に飲ませたうえで、無理矢理寝台に引きずりこんだ。彼にとって幸いだったのは、その家の当主(オズヴァルトにとっては、祖父となる)が、過激な娘の行動をじゅうぶん理解して、若旦那に非はないと信じてくれたことだった。  とはいえ、娘に手を出してしまったことには違いない。オズヴァルトの父は、すでに結婚しており、子供もいた。ずっと養育費を支払っていたが、五年ほど前か。妻が亡くなったのを機に、オズヴァルトとその母を呼び寄せたのである。  しかしわがままな貴族令嬢は、同じ規模の商会から迎え入れた正妻とは違い、店のおかみになることはできなかった。
/188ページ

最初のコメントを投稿しよう!