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目を開けると一軒家の前にいた。
閑静な住宅街の外れに石の門柱があり、樹にランタンが吊るされている。
玄関までの石畳はゆるいカーブを描いていて、手入れされた芝生に木のブランコが置いてある。腰ほどの高さの植木は段差をつけて刈り込まれている。
豪邸ではないが、住人の手が行き届いている
「可愛いお宅ですね。ここは……?」
「セルジオの家だ」
背中の手に促されて足を踏み入れる。
進むにつれて、ランタンの灯りが灯る。
いい匂いが漂ってきた。
「ああ、よかった間に合った。」
転移陣が光って、セルジオが現れた。
「本当は私も先に着いて出迎えたかったのですが、すみません。でも遅れるよりは一緒に帰宅した方が妻に叱られないですみそうです。
これは妻の特製シチューですね。何度も温め直しをすると完璧な状態ではなくなるので、一度に全員が食べられるのは幸せです」
「リーゼ嬢、うちの妻は元侍女でした。あなたとわかり合える部分があるかもしれません。
あと、コイツの食事事情を見かねてうちに招いたりもしています。姉のような、母親のような心で見守っていました」
「コイツ……って」
リーゼが驚いたけれどカインは慣れているらしい。平然としている
「もう勤務時間じゃないので上司扱いしなくていいでしょう」
そういうものなの!?
侍女の先輩にそんなことを考えただけで恐ろしい。
「俺は子供の頃から魔術師として王宮に出入りしていたから、周りの皆から息子や弟のように思われてて、世話になった。成り行きで役職を押し付けられただけで、皆に頭が上がらない。実質はセルジオが主導権を握っている」
リーゼが二つブーケを持っているのを見て、セルジオは顎に手を当てて少し考えるような素振りをした。
「リーゼ嬢は妻に渡してください。もう一つは、カイン、わかってるな?」
とても苦々しい顔だった。
「もしかして最強のライバルって」
セルジオさんの奥さんが認めた女性じゃないと結婚を許さないとか、そういうこと
「すぐにわかりますよ」
そう言ってドアの鈴を鳴らした。
「ただいま」
開けられたドアから、あたたかい光とシチューの香りに包まれた。
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