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「……ほら、あの子よ、例の」 「ああ、え?魔術師の……子供っぽいじゃない」 「ああいうのが趣味なんだ、魔術師って」 気にしない気にしない。 聞こえるように言ってるかもしれないけど、気にしたらダメ。 「団長って年上でしょ?地位に目が眩んだの?あの子。おとなしそうに見えて……」 王宮の中を歩くと、今までとは違う。 陛下や皇后からも早く婚約を結ぶようにと直々に声をかけられ、仕事の面でも異例なこと続きなのだから注目を集めてしまった。 王女付きに選ばれた時も、嫌味を言われたことはあったけど、それは自分の仕事ぶりが認められたんだと胸を張って言えることができた。 でも今回は 何で団長は私を選んでくれたんだろう 憧れてたけど、団長は大人だからもっと大人っぽい女性が似合うんだろうなって思ってた 「あんたがリーゼ?」 結構な至近距離で見下ろされている。 燃えるような赤毛の美人。 そう、こんな感じの人なら。 リーゼの目線には、ちょうど豊かな胸がある。 「はい」 「ふうん、あのカインが選んだって聞いたから余程の女かと思ったけど」 口の端をすうっとあげて微笑まれる。 先輩たちに鈍いと言われるリーゼでもわかった。 これは、分かりやすく挑発されている。 カトリーヌさん、前もって女の妬みの怖さを教えてくれてありがとうございます。 赤毛美人はローブを着ているので魔術師のようです。でも王宮では見たことない制服で、騎士服のようでもある。魔術師の中でも軍関係の諜報などを行う部署かしら。 カイン団長の直接の部下ではないかもしれない。今は。 祝福してくれた魔術師の中に女性はいなかったはず。 『選んだって聞いた』 つまり少なくとも今は遠い存在だってことね。 「初めまして、で良かったでしょうか。団長の婚約者のリーゼロッテです。」 優雅に礼をとった。 「たくさんの部下の方に紹介して頂きましたが、まだ他にもいらっしゃったのですね。」 「私は今は部下じゃないから、それにカインとは長い付き合いで……」 「そうですか。私は仕事がありますのでこれで」 「ちょっと、カインの過去の話とか気にならないの?」 「ええ。全く」 「ねえ、今までにもいろんな女が」 「……私、忙しいので失礼しますね」 背を向けて廊下を進む。 早足 走る。 何度も角を曲がってから、座り込んだ。 心臓が破れそう。 あー、びっくりした。 でも、 王族付きをなめないでいただきたい。 どんな時も、動揺せず毅然と控えていること。 侍女の矜持があるのだ。 先程の彼女も他の人も 魔術師団長のカイン・リューバーしか知らない。 私が好きになったカイさんは、私だけが知っている。いつもふらふらして、軽くからかってきて。 涙が、滲んだ。 侍女の矜持は持ってるけど、婚約者の矜持とか、自信はまだ無いんだよ、私。 時間がたてばいいのかな 愛情? なにがあれば、私は強くなれるんだろう 「リーゼ?どうしたの!」 「カトリーヌさ、」 「真っ青よ。侍女長さまには言っとくから医務棟に行きましょう」
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