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その日、カインは午後から休みを取った。
リーゼが午前中は医務棟で過ごし、そのあと買い物をすることになった。
「リーゼ、体調は大丈夫か?」
「大丈夫です」
二人は王宮内のカフェにいた。
食堂もいくつか別れていて、騎士団好みのガッツリ大盛系、片手で食べられるサンドイッチ店、軽食とデザートも多いカフェ、
それぞれ客層が違う。
カフェでは王宮内で働く違う部署の恋人や友人が待ち合わせをすることが多い。
少々片方が遅れてきても、何かをつまみながら仕事をすることもできる。
二人がいるのはテラス席。
これはセルジオの指定。
「こんなに目立つ席だと思わなかった。リーゼはよくこういったところは来るのか?」
店内や外から、視線を感じる。
リーゼ一人に向けられていた鋭いものや嫉妬からのものではなく、
「あ、噂の二人ね、大変ね。頑張って」
というように、会釈や笑顔を添えてくれる。
待ち人が来たら、どの人も笑顔になる。
「セルジオさんも、奥さんと待ち合わせしたのかしら」
「そうかもしれないな。時々、ここのテイクアウトをもらったことがある。俺はよく食事を忘れるのでセルジオが呆れていた。」
リーゼは最近は食欲がなかったので、メニューを決められずにいた。
数種類のサンドイッチの盛り合わせとポタージュスープ、チキンの香草焼きを頼んでシェアすることにした。
頬杖をついてカインが見つめてくる。
もうフードは被っていない。
光に透けて藍色に見える髪。初めは黒髪かと思っていた。
フードを被っていたから。
サボってリーゼの近くで昼寝するカイさんをみて気づいた。
「リーゼ、少し痩せたか?」
ううん、大丈夫と言いかけて、やめる。
「少し、忙しかったので食事が不規則になっていました。それで食欲がなくて」
少し正直に言う。
「悪いな。急なことで」
頭をふる。
幸せになるんだもの。
好きな人と結婚できるだけで充分幸せなんだから文句なんてないわ。
今までに何度もそう思った。
久しぶりに会えて、やっぱりかっこいいなと思ったし優しい。
「あ」
どうした?とカインが目線で問う。
「ここの人達は、みんなニコニコしてるなって」
相手を待っているのも苦じゃなくて、来たら嬉しくて。つまり、そういう相手がいる人は、他人の幸せに嫉妬しない。
リーゼを攻撃していた視線たちや影が、急に風船の空気が抜けるように感じた。
シュウウウーッとしぼんでペラペラになるような。
もともと、実体のないようなものだったのかもしれない。
「リーゼ?」
困ったようなカインがまた可愛くて。
「やっぱり、私結婚について考えすぎて疲れていたみたいで……」
「リーゼ、何でも言う通りにするからやめるとか絶対言わないで!」
立ち上がったカインに手を両手で握られた。
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