#00あの子と彼の一触即発

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#00あの子と彼の一触即発

▶ ……………かたん、かたん。 剥き出しの鉄骨階段のクッション性は超最悪。 ヒールから直に伝わる振動が気色悪いし、耳朶に触れる鋭く冷たい音色がうるさいし、錆び付いた手摺にも触りたくないし、なんなら〝階段〟って時点で萎える。 駅に近い立地であるのに、線路沿いに建つものだから、電車の音が煩い。 目線の先は青白い街灯が照らす夜道。ホテル街が近いからか行き交う人はカップルも多い。飲み会帰りのサラリーマン、ぼんやりと佇む男性、飼い犬の鳴き声、寂れたアパート。 挙げてしまえば〝最悪〟だらけ。 名の知れた企業の華の営業職というポジションに、もう、五年も勤めているらしいのに、こんな場所に住もうと思う男の気が知れない。 階段をのぼりきるまでに、弾んだ呼吸を整える。 ふう、とひと息に夜の空気を吸い込めば、今日もなんとかミッションクリア。 息を切らして会おうものなら、あの男が調子づいて、ふふんと鼻を鳴らして見下すに違いない。 あぁ不快だ。 会う前から人を不快にさせる人間がいてたまるか。 人をそこまで不快にさせるって、一種のウイルスでも持っているに違いない。
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