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不快だと分かっていて、会いに行くあたしもまた、あの男が振り撒く名称不明のウイルスに、脳の神経が侵食されているのだろう。
処方箋が貰えるのならすぐにでも欲しい。そんな病の特効薬、どこにいけば、どれだけのお金を積めば渡してくれるだろうか。
むしゃくしゃする気持ちを押し込めて、住人が何人いるかも分からない、築年数など考えたくもない、古びた二階建アパートの、二階の角の部屋にたどり着く。
部屋に入る前に、自分の手首を鼻にあてれば、花の香りが微かに漂った。……弱くなってる気がする。
白いバッグから細長いボトルを取り出して、シュッと頭上で振りまいた。
よし。OK。
足元は、汚れ知らずの7センチのヒールが薄い照明を反射しているし、腕に巻きつくブレスも絡まっていないし、指には華奢なリングが三つほど乗っている。耳朶を触ると、たらりと下がるパールが振り子のように揺れた。
よし、と。2度目は声もなく頷く。
膝丈のひらひらのスカートが夜風を閉じ込め、ふわりと浮いたと同時に、もう一度、身体の深淵から息を吐き出した。
今日のあたしはすこし違う。
あいつに手土産のひとつでもお見舞いしてやるのだ。
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