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男はテーブルに無造作に置かれた煙草の箱を片手で拾い上げ、軽く振っては出てきたそのひとつを口で咥える。
ヘビースモーカーらしいその男の指が探すのは、お次はライターだろう。テーブルの隅っこに乗っている白いそれを男よりも先に奪った。
キャバクラ店と思しきワインレッドの筆記体が乗るライター。それをひらひらと翳すと、煙草を口に咥えたまま舌打ちした男は眉根を上げてあからさまに不機嫌を形作る。
怯みそうになるけれど、出した手を引っ込めることが出来ないあたし。
「ちょっとは喜んでくれてもいいのよ?廃れたボロアパートでやさぐれるリーマンの家にうら若く可憐な女子大生が来てやってんの」
中身のなさそうな頭に入るように、語気を強めて男を見上げると、平行二重の瞳はあざとく目尻を下げ
「可憐、ねえ?」
そう言って肩をくつくつと揺らす。今の、絶対お尻に〝(笑)〟がくっついていたと思う。
不機嫌をやめたその表情は、憎たらしいほどの満面の笑み。
このライター、窓から捨ててやろうか……。
不快感が鳩尾に溜まり、苛立ちで目を細めていれば、その男はキッチンのダクトの下へと歩いていった。
そうしてわざとらしい動作でポケットに手を入れて、取り出したライターをカチカチと鳴らすから、ぽかんと口を開けるしか出来なかった。
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