男の段差

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「…失敗は、許されない。」 音になるかならないかの(かす)かな声で、自分自身に言い聞かせる。 これからミッションに(のぞ)むための覚悟を、しっかりと固めるためだ。 今なら本能寺の信長を敵と(うた)った()の戦国武将の気持ちもなんとなくわかる気がする。 敵は本能寺にあり、お母さんは家に居る。 「すぅー…はぁぁー…」 深呼吸をひとつして、ランドセルに忍ばせた“秘密”のことを想う。 ソレの中に詰まった情報を想うと、頭の中でちいさな爆発が起きたような心地がする。 途端に動悸が激しくなって、目の前がチカチカする。 そういえば家を出る前、朝のニュースで記録的な猛暑日になると言っていたことを思い出した。まったくもってそのとおりだな、と()だる頭の片隅でそんなことを思う。
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