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「ちょっと待った!」
一瞬の葛藤の後、思い切ってそう言った。
どうやら、僕には覚悟が足りなかった様だ。
『男にはな、ときに戦って手に入れなけりゃいけないモノがあるんだよ…』
以前、酔っ払った父さんが大きな背中越しにそう言っていたことを思い出す。
ともすれば、今、この瞬間こそが僕の男としての戦場なのではないだろうか?
きっとそうに違いない。
「ふっ、それでいいんだよ。」
アホの幼馴染はますます威厳を漂わせながら、僕に微笑みかける。負けるわけにはいかない。
「でもよお、悲しいことに、この本は一冊しかない。さて、どうするよ?」
「確かに、一冊しかないな。」
ほんの少しの間を置いて、陽介がパチンとヒザを叩いて言った。
「んー…分かったこうしよう。今まさに開かれているこのページで、半分づつこの本を分け合うってのはどうだ?」
いつになく冴える陽介に対して、僕の胸のなかに奇妙な尊敬の気持ちが芽生え始めていた。
「ああ、分かった!そうしよう。」
「ただし、どっちを選ぶかの選択肢はオレにくれよな? 見付けたのはオレなんだからよ!」
屈託なく歯を見せて笑う陽介の主張はもっともだったし、惜し気なく宝を分け与えるその懐の広さに、僕はすっかり感服してしまった。
時代と場所が違ったなら、きっとこいつは良い王様になれたんじゃあないか、なんて突拍子もなく考える。
陽介、オレ、お前と友達でよかったよ。
喉元まで出かかった言葉は、照れ臭いからそのまま胸のうちにしまうことにした。
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