男の段差

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できうるかぎり、慎重に、僕は玄関のドアノブに手を掛けた。 「あら、ずいぶん遅かったわね。」 「ーーッ!」 背後からの呼び掛けに、身体はビクリと大きく跳ねる。 振り向くと買い物帰りらしきお母さんが、食材の入った袋を持って立っている。 「たた、ただいま! 荷物、持とうか!?」 予期せぬタイミングでのエンカウントに、上ずった声が出てしまう。 「どうしたの? なんかやけにあたふたしてるわね…ははーん。」 しまった!まさか今の一瞬で何かを勘づかれたとでも言うのか!? 買い物袋を手渡しながら、なにやら思案するお母さんの顔を見上げる。 きっと今の僕は、とんでもなく情けない顔をしていると思う。 「あんたさては、通知表の結果あんまり良くなかったんじゃないのー?」 お母さんは渋い表情でこちらを見ている。 どうやらバレた訳ではないことが分かって、ひとまずはほっと胸をなでおろす。 「ご飯、食べる前に通知表見せなさいよ。 あんまりひどい様なら、今月のお小遣いカットするわよ?」 それはそれで一大事ではあるけれど、ランドセルの秘密に比べれば大したことはない。はずだ。 「ほら、早く入んなさいよ。」 そう言ってドアを開けたお母さんはまるで、地獄の門番の様に僕の目には映った。
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