1人が本棚に入れています
本棚に追加
できうるかぎり、慎重に、僕は玄関のドアノブに手を掛けた。
「あら、ずいぶん遅かったわね。」
「ーーッ!」
背後からの呼び掛けに、身体はビクリと大きく跳ねる。
振り向くと買い物帰りらしきお母さんが、食材の入った袋を持って立っている。
「たた、ただいま! 荷物、持とうか!?」
予期せぬタイミングでのエンカウントに、上ずった声が出てしまう。
「どうしたの? なんかやけにあたふたしてるわね…ははーん。」
しまった!まさか今の一瞬で何かを勘づかれたとでも言うのか!?
買い物袋を手渡しながら、なにやら思案するお母さんの顔を見上げる。
きっと今の僕は、とんでもなく情けない顔をしていると思う。
「あんたさては、通知表の結果あんまり良くなかったんじゃないのー?」
お母さんは渋い表情でこちらを見ている。
どうやらバレた訳ではないことが分かって、ひとまずはほっと胸をなでおろす。
「ご飯、食べる前に通知表見せなさいよ。 あんまりひどい様なら、今月のお小遣いカットするわよ?」
それはそれで一大事ではあるけれど、ランドセルの秘密に比べれば大したことはない。はずだ。
「ほら、早く入んなさいよ。」
そう言ってドアを開けたお母さんはまるで、地獄の門番の様に僕の目には映った。
最初のコメントを投稿しよう!