Last Fight 君の犠牲の上での成果なんて、何の意味もない

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「やあやあ、高井さん。久しぶりだな。元気だったか?」 「……お久しぶりです、長谷部さん……」 そうか。 担当になるということは、この人を相手にしないといけないのか……。 YAIDAで生きていきたいなら、この人に逆らってはいけないと言われるほど、人事の中枢人物。 「で、どうかな?」 「……何が、ですか」 「私に啖呵切ったじゃないか。この会社でやりたい事できません!この会社はつまらない!とね」 「…………そうでしたっけ?」 表向きにこやかに話してるな〜と思ったら、いきなりぶっ込んでくる。 それでいて、そのぶっ込み方は無遠慮に、かつ的確に人の心を抉る。 この人のそういうところは、とても苦手だった。 離れた今でも、思い出すだけで怖いと思ってしまう。 そんな人を、取引相手にするかと思うと……私は震える。 「でもそうか。まさか君たちが一緒に働くことになるなんて……」 長谷部さんは、私と加藤さんを交互に見比べながら言った。 「私も、高井が入社した時に長谷部さんのことを思い出しましたよ」 「縁とは何があるか分からないものだね。人生面白いものだ」 「本当に、私もそう思います」 加藤さんが、にこやかに長谷部さんと握手を交わしながら、そんなことを言っていた。 事情は分からない。 ただ、社内での噂によると……。 加藤さんはかつてYAIDAを出禁になるほどの大事件を起こしたことがある、らしい。 会社としても大損失。 加藤さんは懲罰の対象になってもおかしくなかったそうだ。 それにも関わらず、何か策を立てた結果、むしろ長谷部さん……つまりYAIDAの人事部の信頼を勝ち取った結果、今では「独占案件」まで貰えるようになった。 そう考えると……やはり加藤さんの仕事の力はすごい。 「さて……では挨拶ついでで申し訳ないが、求人の話をしてもいいか?」 「も、もちろんです!」 私は急いでポケットからメモを取り出した。 「そう鼻息荒くせんでも。そういうところ、君は変わらんな」 「……余計なお世話です、長谷部さん」 「ははは。褒めてるんだよ」 「言い方が褒めてるそれじゃないです……」 「まあいいじゃないか。なあ、加藤君もそう思うだろう?」 「え、ええ……まあ……そうですね……」 そんな風に和やかに始まった打ち合わせだったが……長谷部さんに提示された求人は、あまりにも重々しかった。 全世界探しても、その技術を持っている技術者は50人もいないかもしれない……と言えるほどの希少な最先端技術者の採用。 スタートの年収は3000万円から。 これは……本当に決められれば一気に予算が達成できる、とてつもないお宝案件。 だが、これを決められる確率は……正直天文学的数字になる。 そんな恐ろしい求人だった。 「YAIDAの新規プロジェクトに、どうしてもこの人材が必要だ。社運がかかっているといっても過言ではない」 「期限は?」 加藤さんがすかさず聞いた。 「なるべく早く」 それは、期限を決める時にはあまり使って欲しくない言葉。 だけど、この案件ばかりは仕方がない。 1年かけてでも見つかるかどうか分からない。 それくらい、予測ができないのだから。 「分かりました。お受けしましょう」 困惑している私の代わりに、加藤さんが長谷部さんから資料を受け取った。 「頼むよ。加藤君と高井……さんになら、任せられると思ったよ」 「そう言っていただけて光栄です」 加藤さんはスマートに返答する。 私は急展開に頭がついていかなかったので、とりあえず軽い会釈だけした。 「ただ……申し訳ないけど、今回は独占……というわけにはいかない。成功率を増やす必要があるからね」 「もちろん、わかっております」 「加藤君は本当に優秀だ。ありがたいね。……と、……高井」 「は、はい!」 いきなり名前を呼ばれて、間抜けな声を出してしまった。 「いい上司を持ったな」 「…………はい」 「ここなら、君のやりたい仕事とやらは……できそうだな」 私は、そう言った長谷部さんの顔を、一生忘れることはないだろう。 その顔は、私が実家を出る時に見た、私を見送る父の顔によく似ていたから。 「それにしても……縁というものは、時には必然的に繋がるものかもしれないな」 「何ですか?さっきから長谷部さん」 「いや、ちょっと……な……」 ちょいちょい長谷部さんが、縁という言葉を使ってきては、私と加藤さんを交互に見ながらニヤニヤしている。 ……何なんだ……?
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