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「お疲れ様」
私が、例の案件のために残業をせっせとしていると、背後から声をかけられ、缶コーヒーがにょきっと現れた。
「河西君……」
「大丈夫か?今やってるそれ、結構しんどい案件なんだろ?」
「ほんとマジでしんどい」
って……あれ?
「なんで知ってるの」
「ああ。元木さんとこの間サシで飲みに行った時に聞いたよ」
「いつの間に……」
そう。
奇跡を連れてきたCAというのは、何と元木さんだった。
実は、私と加藤さんのYAIDA訪問の日に、ちょうど元木さんがカウンセリングを担当した人が、欲しい経歴に一致したのだった。
ただ、元木さんは慣れないカウンセリング業務に追われた結果、その事実に気づくまでに1週間要したのだった。
ちなみに元木さんと河西君は、あの飲み会の後から、よく2人でサシで飲みに行っているらしい。
何でも、河西君が元木さんの相談に色々のっているらしい。
本当に河西君は、私達同期の良きお兄さんって感じがする。
最年長は元木さんだけど。
「元木さん、随分はりきってんぞ、この案件」
「どうして」
「ほら、この案件、もし決めたらさ……ぶっちぎりで元木さん予算達成になるわけじゃん」
「うん」
「そしたら、きっと初ボーナスの額も違うじゃん」
「そうだね」
「するとさ……できるんだよ」
「何が」
「彼女さんへのプロポーズ」
「……まじで?」
「結婚指輪と婚約指輪、その額があれば一気に買えるだろ?」
「なるほど、そういうことか……」
「だからさー俺も応援したいなと思って……というわけではい、このコーヒーは差し入れな」
「ありがとう」
私はそのままカフェインを摂取するために、プルタブをぷしゅっと開けて一気飲みした。
「おい、そんな一気に飲んで大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫!元木さん、飲み会の時かなり凹みまくってたし……この案件で元気になって、しかも、彼女さんと結婚できるようになるなら……やりがいあるってもんよ!」
「かっこいいねー惚れそうだよ」
「惚れてくれていいのよ」
「惚れると言えば……」
「何?」
「早瀬。あいつさ……今何してるか知ってるか?」
「何、もう辞めた?」
「さすがにそれはひどいだろ」
「ごめんごめん。で早瀬君がどうしたって?」
「あいつ、あの飲み会の場でさ……最初お前にべったべたしてたろ?」
「……ああ……そう……だっけ?」
あの日の記憶は、正直ほとんど覚えてないし、できればこのまま封印してしまいたい。特にトイレに行った後の部分は、全て丸々カットしたい。
「お前が加藤さんに連れてかれた後、井上さんが俺たちの席に挨拶に来てくれたんだけどさー……なんと、早瀬が井上さんに一目惚れしたんだってさ」
「は、何それ」
井上さんはとっても可愛らしい女の子なので、一目惚れする男がいても、何ら不思議ではない。
私も、男だったら一目惚れするかもしれない。
でも……。
「私……一応早瀬君からデートしようって誘われたはず……なんだけど」
「無理でしょ」
「なんで」
「鬼の加藤に睨まれたんだから」
「え!?」
な、なんでそこに話が繋がるの!?
「あれだけ高井さんに近づくな的オーラ出されて……。それでももし、高井さんに手を出せる男がいるなら、俺は表彰もんだと思うぞ」
「オーラって……」
「いやーあの時の加藤さん、表情だけで虎狩り成功すると思ったわ」
……一体どんな表情だったんだ。
その時の記憶は、残念ながら、あれから更に曖昧になった。
ただ、なぜか思いっきり烏龍茶をぶっかけられて、それからそれから……。
「高井さん」
「…………何?」
「あの飲み会の後、加藤さんと何があったん?」
私はさっきお腹に入れたコーヒーが口から吹き出そうになるのでは……というくらいに、河西君が投げた爆弾に耐えるので精一杯だった。
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