Last Fight 君の犠牲の上での成果なんて、何の意味もない

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「あれ……髪型と化粧変えました?」 仕事中、唯一それを指摘したのは井上さんだった。 「あ、バレました?ちょっと気分転換したくて」 こういう質問が、誰かから来るのは想定していたので、頭の中でシミュレーションはしていた。 でも、てっきり河西君あたりだと思っていたので、井上さんから来るのは完全に想定外。 ちょっと、テンパってしまった。 「やっぱり……変ですかね?」 オシャレさんな井上さんに、こういう話題を振られるのは、地味女子としては結構辛かったりするのだが 「とても素敵だと思います」 と、褒めてくれた。 状況が状況じゃなければ、きっと手放しで喜べただろう。 「あ、そう言えば……」 私は今朝からちょっと気になってることを聞いてみた。 「加藤さんって、今日外出なんですか」 「そうなんです。急に決まったとのことで、リスケがちょっと大変でした……」 お、井上さんでも愚痴のようなものを言うのか。 1個井上さんのことを知れたのは、ちょっと嬉しい。 もののついでに 「そう言えば井上さんって……」 「はい」 「早瀬君と付き合ってるの?」 「っ!!?」 あ。顔真っ赤になった。 「なっ……なななな」 きっと、何で、と言おうとしたんだろうな。 動揺のあまり声が言葉になっていない。 でも……この狼狽え方は……。 「図星みたいですね」 「……どこから……」 井上さんが観念したのか、認めた。 「河西君から。早瀬君が井上さんに猛アタックかけた……というくらいしか聞いてないけど」 「そ、そうですか……」 井上さんは、照れ隠しの咳払いをすると 「最初は、お付き合いなんてする気がなかったのですが……」 「うん」 「……愛される、というのは心を満たしてくれる物なんだな、と思いまして、それで……」 「ほほー」 まずい。 こういう話……人のことなのにニヤニヤが止まらない。 いや、違うな。 人のことだからニヤけられるんだろうな、と思った。 「そ、それじゃあ失礼します」 そそくさと逃げていくような井上さん、初めて見た。 井上さんは、今まさに早瀬君に恋をしているのだろう。 とても可愛い……と思った。 恋の力はすごいんだな……と感心すらした。 だから……私があの人に抱いているかもしれない気持ちは、きっと恋ではないと思う。 だって、私は……ちっとも可愛くなんかなれないんだから。 「さて、仕事しなきゃ」 今日は定時で終わらせないといけないのだから。 余計なことは、決して考えてはならない。
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