Last Fight 君の犠牲の上での成果なんて、何の意味もない

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三条ちゃんが受けたという痴漢の被害は、思ったより簡単に実感する事ができた。 何故なら、電車に乗ってすぐ、それがきたから。 帰宅ラッシュということで、隣の人と体が触れ合ってしまう程度には混んでいる。 だけど、体の皮膚が、肉が押されるほどのものではない。 本当に、服と服が擦れ合うレベルでしかない。 それなのに、今私は、確実に真後ろに、鮫島の存在を感じている。 そして、さっきから肘で、胸……の代わりにしている詰め物を突いてきている。 ここで気づいてしまうと、逃げられてしまうかも知れない。 この人混みは、1度逸れたらなかなか見つけられない程だ。 ミスは、許されない。 窓の外の景色は、徐々にゆっくり流れるようになった。 間も無く、駅のホームに到着する。 扉が、ゆっくり開いていく。 よし、このタイミングだ。 がしっ 私は、鮫島の手首を掴み、そのままホームへ引き摺り出す。 「何をするんだ!!」 それは、こちらのセリフだ。 「大事なお話があります。お付き合いいただけますね。鮫島裕次郎様」 「……っ!?」 私が名前を言い当てたことに驚いたのか、それとも目的の人物と違う人物だったから驚いたのか……。 両方かもしれないな。 でも正直、今はどうでもいい。 「名乗るのが遅れて、申し訳ございませんでした。私、パーソナルハーモニー社で法人営業をしている、高井と申します。YAIDAの担当を務めております」 私が名乗った途端、鮫島の目の色が変わったのが、分かった。 ここから先……吉と出るか、凶と出るかはわからない。 でも、今更引き下がるわけには、いかない。
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