第40話 <佑のスピーチ>

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第40話 <佑のスピーチ>

佑は立ち上がり、壇上に上がった。 「同じく広告クリエイター養成コース卒業生の沖田佑です。 よろしくお願いします。 広告クリエイターコースでしたが、 テレビ番組の制作会社に進みました。 僕は二年生になってすぐに授業には出ずにその会社でADとして アルバイトを始めています。 就活はせず、その会社にそのまま正社員として迎え入れられました。 同期より先に仕事をしていたので、 頭一つ分くらいは抜きに出ていましたが、 まぁでも最初はキツイ事もありました」 そう言って佑は苦笑した。 「上司や先輩に怒鳴られたり、『お前もう帰っていいよ』と 仕事をさせてもらえないなんて日もありました。 それでも、『それじゃどうやったら上手くできるのか?』を日々考えて、 目の前の事を一つ一つこなしていたら、 ある時から周りに頼りにされる事が増えてきました。 もう、ひたすらそれの積み重ねです」 そう言ってまた笑った。 「ただ、その積み重ねってやつが大事で、 薄いベールが一枚一枚重なって、 いつしか頑丈な鎧になっていった。 そうなると外からの攻撃にもダメージは少なくなるし、 堂々として見えると相手も攻撃もしてこなくなる。 そうなれるまでには時間がある程度必要だし、 下積みの時間は辞めたくなる事もあったけど、 そこを踏ん張って続けた時に、 自分の中に揺らぎない自信というか 生きがいみたいなものが生まれました」 佑、そんな感じで仕事していたんだ……。 改めて佑が私に言った言葉が身にしみた。 「最初の会社では海外の旅番組やドキュメントが多くて、 あちこちの海外ロケに同行しました。 そのノウハウを得て、今僕は前の会社の仲間と組んで 海外のドキュメントを主に製作する会社を起こしています。 学校にいた頃は自分がこんな事するなんて思ってもいませんでしたが」 そう言ってまっすぐ生徒の方を見て言った。 「どうあれ、プロになるという事は、 甘い事ばかりじゃありません。 でも、プロにはアマチュアにはない確固とした覚悟があって、 それが僕は美しいと思っています。 皆さんもその覚悟を持って、仕事をして欲しいと思います! 以上です!」 9a4b96ea-f38a-4f24-80f8-6d6473e83bfd 教室はまた拍手に包まれた。 リーダーも佑も立派な話だ。 私の話なんてこんな場所でして良いのだろうか……? この依頼を受けた事を少し後悔したが、今更後戻りはできない。 私は私にできる話をしよう。 私は緊張した足取りで壇上に歩き出た。
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