第42話 <佑の憂い>

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第42話 <佑の憂い>

特別授業の後は、 先ほどの控え室で簡単なお疲れ会の用意がされていた。 お寿司やサンドイッチ、オードブルなどがテーブルに並べられていて、 先生たちと卒業生たちがそれをつまみながら談笑している。 「クラゲ、スピーチ良かったよ」 リーダーがそばに来て言った。 「なんか、成長したなって思った。 青い鳥ももうすぐ見つかるんじゃない?」 「え? どういうこと?」 リーダーは何も答えず、ニッと笑った。 「そうだ、ぶちおのやつ、ちょっと元気ないみたいで。 話聞いてやって!」 そう言って、リーダーは先生達がいる方へ行ってしまった。 佑? そう言えばさっきから姿が見えない。 どこ行ったんだろう? 廊下に出て、階段の踊り場も覗いて見たが見当たらない。 あ、もしかして……。 私はそのまま階段を上がり、屋上に出た。 空は紫色からオレンジのグラデーションに染まっていて、 薄い三日月が出ていた。 あの日みたいだ。 金木犀の香りがあの時の甘く切ない気持ちを後押しする。 屋上を見渡すと、柵に寄りかかって遠くを見ている 佑の後ろ姿を見つけた。 「佑!」 声をかけると静かにこちらを振り向いた。 6ee8225c-ae11-40e8-8b96-79f7c57aa483 「どうしたの? 一人でこんな所で」 「うん。 学校懐かしいなと思って」 そう言ってまた遠くを見つめた。 その目はどことなく憂いをおびている。 「なんか元気なくない?」 私は顔を覗き込んだ。 佑は軽いため息をついて、 「仕事仲間と、上手くいってなくてさ」 そう一言つぶやいた。 「そっか……」 私もそれだけ答えた。 「ひたむきにやってるだけじゃ駄目なのかな? 俺は仲間の効率や利益ばっかり重視するやり方がさ、 納得いかないんだ。 それって綺麗事なのかな?」 私は少し間をおいて 「そんな事はないよ」 と言った。 「私も今、そりゃーー効率の悪い事ばっかやってるよ! お客さんの気持ちに沿うために、今日もここに来る前に お客さんの思い出の場所に足を運んだよ」 私は笑いながら言った。 「でもさ、そういう一手間をかけることで、 お客さんが喜んでくれるのが嬉しいんだ」 佑はそう言う私を見て 「お前がそういう話をするようになるとはな」 と少し笑った。 「仕事頑張ってるんだな」 「うん、頑張ってる。 今、チーフって呼ばれてる」 「お前がチーフな会社ってヤバくね!?」 「失礼な! これでも後輩に慕われてるよ!!」 私は口を尖らせて言い、佑は笑った。 「でも確かに。 お前、今、良い顔してるよ」 そう言って私の顔を見た。 「俺もまだまだ頑張らなきゃな」 そう言って佑は私の頭をぐちゃぐちゃと撫で、 「今日会えて良かった、元気出た。 ありがとな」 と、屋上を後にした。
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